口実クリーニング 作:益岡礼智 椅子に座って木田の講義を聴いている笠原、横内、杉浦。 「自殺セミナー」の講義をしている。 木田  …我が社では、皆様一人一人に最適の場所、時間、方法を提供できる様努力いた     します。皆様の御希望は、この後の個人面談でお伺いいたしますので、お手元のパ     ンフレットをよく御覧になって、お決めください。パンフレットに載っていないこ     とが御希望の場合でも、できる限りお答えしますので、御遠慮無くお申し付けくだ     さい。…何か御質問は? 杉浦  はい。 木田  どうぞ。 杉浦  これ、ツアーなんですよね。 木田  はい。 杉浦  ここにいる3人の。 木田  4人てす。都合で今日はいらしてませんが、もうひとり参加なさる方が。 杉浦  じゃあ、同じ日に4人も… 笠原  あ、そうか。不自然ですよね。 杉浦  ね、怪しまれませんか? 木田  大変鋭い御指摘てすが、それにつきましてもこちらでコーディネートさせていた     だくことの一つになっておりますので。 杉浦  どういうことでしょう。 木田  つまり、死体発見も、検案が行われた際の死亡推定時刻の設定も私どものアフタ     ーケアによりばらつかせることができるということです。御希望があるならその日     時に設定させていただきますが。 横内  すごーい。 杉浦  そんなことほんとにできるんですか? 木田  お任せください。わたしの専門てはないので細かいことは説明できませんが、そ     のための特殊効果班が別に控えております。 杉浦  専門? 木田  医学、理化学系の者で構成されております。 杉浦  はあ。 木田  納得していただけましたか。 杉浦  ええ、まあ。 木田  他に何か御質間は。 横内  はい。 木田  どうぞ。 横内  パンフに遺書のことが指示されてるんですけど、これって必ず書かなきゃダメで     すか? 木田  いえ、書きたくないのであれば結構ですよ。こういうものは飽くまで本人の意思     ですから。…後は、よろしいですか。では、個人面談に移ります。まずは横内さん     から。後のお二方はこの部屋でしばらくお待ちください。     木田、横内、出て行く。残された2人、手持ち無沙汰。まず笠原が動き出す。 笠原  あの、自己紹介しません? 杉浦  は? 笠原  せっかく知り合ったんだし、これから一緒にツアーにも行くし。 杉浦  でも今回に限って、お互いの名前知ったって何にもならないんじゃないですか。 笠原  そんなこと言わないで。これも何かの縁でしょ。じゃ、私から。笠原佳也です。 杉浦  杉浦珠恵です。 笠原  何をしてらっしゃるんですか? 杉浦  …デパートの社員です。ベビー服売り場を担当してます。 笠原  え、どこのデパート? 杉浦  ヤマトクです。 笠原  へえ、行ったことありますよ。じゃひょっとして会ったことあるかもしれないで     すね。私子供いるんです。 杉浦  お若いお母さんですね。 笠原  ええまあ、学生結婚だったので。今は主婦ですけど。 杉浦  …お子さんいるのに、こんなとこにいていいんですか? 笠原  いやー、あたしの場合、その子供が原因っていうか… 杉浦  ごめんなさい、立ち入ったことてすね。 笠原  いえ、いいんです。     間。シーンとなる。 杉浦  あのー。 笠原  はい。 杉浦  笠原さんは、何でここのことを。 笠原  ああ、ダイレクトメールがね、届いたんですよ。 杉浦  あなたもですか。 笠原  杉浦さんも? 杉浦  ええ。1週間程前に。 笠原  一見なんだかわかんないじみーな葉書で。 杉浦  「あらゆる自殺、コーディネートいたします」 笠原  こーんなちっちゃい字でしかも葉書の隅っこにね。 杉浦  最初はなんだか気味が悪いって思ってたんですけど。 笠原  ですよねえ。「あなたの背中を一押しするこの手」って、何かの比喩だろうと     思ったら、まんまなんですもん。 杉浦  どう思います? 笠原  どうって? 杉浦  本物でしょうか。 笠原  うーん。考えてなかった。どうでしよ。 杉浦  考えてなかった? 笠原  だって、こんなに尤もらしく書いてあるから。 杉浦  尤もらしいからこそ怪しいと思いませんか? 笠原  はあ、まあそうですねえ。 杉浦  新手の詐欺商法か何かだったら… 笠原  杉浦さん、そんなに怪しいと思うんなら何で来たんですか。 杉浦  もしも本当なら、と、思ったものですから。 笠原  はあ。     面接が終わって部屋に入ってくる横内。 笠原  どうでした? 横内  どうって…、なんだかよく 杉浦  本物だと思います? 横内  え? 笠原  杉浦さん。 杉浦  怪しい壷か何か買えって言われませんでした? 横内  別に何も。 杉浦  死後天国に行くにはこれを買えとか言って、はんこだの仏像だの… 笠原  だまされた経験でもあるんですか!? 杉浦  私達みたいな人間は特に狙われやすいんですよ。 笠原  まあ、あんな葉書でここまできてますしね。 杉浦  もしも偽物なら早めに手をひかないと。 笠原  杉浦さん落ち着きましょ。私達ちょっと説明受けただけだもの。まだ判断できま     せんよ。 杉浦  まあ、そうですけど。 笠原  確かにおかしな話だけど、こんな世の中だし。 杉浦  そうですけど。 笠原  それに可哀想ですよ、いきなりそんなことまくしたてちゃ。まだ自己紹介もして     ないのに。あ、わたし笠原佳也。こちら杉浦さん。 杉浦  …どうも。 横内  横内久美子です。 笠原  で、どうだった、久美子ちゃん。 横内  だから、なんだかよく分からなかったんですよ。 杉浦  なにきかれました? 横内  パンフを見ながら、希望をきかれて…。 杉浦  それで? 横内  趣味は何かとか、好きな物、嫌いな物… 杉浦  何の関係が。 笠原  お見合いみたい。 横内  あと、心理テストをいくつか… 笠原  あ、なんかそれはいかにもですね。 杉浦  どんなやつですか? 横内  森を歩いていたら、あなたの前を動物が横切りました。その動物はなんでした     か、その動物になんと声をかけますか? 笠原  なんて答えたの? 横内  動物はりすで、「邪魔だからどいて」って。 杉浦  …何の心理テストだったんでしょう? 横内  教えてもらえませんでした。 笠原  うわあ、それむちゃくちゃ気になるなあ。 横内  笠原さんならなんて? 笠原  えーとね、トラで、「食べないでよ」って。杉浦さんは? 杉浦  答えわかんないでしょ、きいてどうするんですか。第一、道横切る動物に普通     声かけようなんて思わないでしょ。 横内  …杉浦さんて現実的ですね。 笠原  心理テストでそんなこと言い出したらきりがないですよ。 杉浦  そういうの、あたしあんまり信じてないんです。 笠原  あ、そうなんだ。 杉浦  それより、他にきかれたことは? 横内  あの…、余計なことですけど、きいてどうするんですか? 笠原  そうだよね、別にテストされてるわけでもないし。 杉浦  そんなことわからないでしょ。良い答えを用意できるなら、それに越したことは     ありません。 笠原  疑ってる割にはやる気のある答えですね。 杉浦  そんなことありません。 笠原  あたしには小学生が友達に注射痛かったかってきいてるみたいに聞こえるんです     けど。 杉浦  何ですかそれ。 木田  (声)杉浦さーん。 杉浦  あ、はい。     杉浦、そそくさと出て行く。 笠原  高校生? 横内  いえ。 笠原  じゃあ中学生だ。 横内  大学生です。 笠原  あ、ごめんね。 横内  いえ。 笠原  …ねえ、どうして遺書、書かないの? 横内  は? 笠原  遺書。さっき書かなくてもいいかってきいてたでしょ。 横内  ああ、別に、…きいてみただけです。 笠原  ふうん。じゃあ、書くんだ。 横内  さあ、どうでしょう。笠原さんは書くんですか? 笠原  そ、そりゃ、もちろん。 横内  やっぱり、普通書くものですよね。 笠原  そう思うよ。 横内  ですよねえ…。 笠原  うん。 横内  …あたし何度も書こうと思ったんですけど。 笠原  うん…?それじゃ何で結局書いてないの? 横内  書こうとして机に向かうとそれまで考えてたことがどっかいっちゃうんです。     やっと思い出して今度こそ書こうと思うと、今度はそれについての文章が浮かんで     こなくて、それで、いつも書けないんですよね。 笠原  深層心理では書きたくないってことなのかな。 横内  そうなんですか。 笠原  あ、わかんない。あたし心理学者じゃないから。 横内  …どうして書けないのかなあ。 笠原  さっきの人も言ってたけどさ、いいんじゃない、書かなくても。どうしても書き     たいのにって言うんなら、話は別だけど。そうなの? 横内  ああ、あたしは別にどっちでもいいんですけど、両親や友達にすれば、書いた方     が親切なのかなあって思って。 笠原  ま、確かに親切といえば親切だね。 横内  あの。 笠原  なに? 横内  この後何かあるんでしようか。 笠原  ううん、わたしにはなんとも。何か用事あるの? 横内  いえ、別に。きいてみただけです。 笠原  …そお。とりあえず、待ってみよっか。 横内  そうですね。     転換。椅子等を片付ける。そのまま自殺ツアーの待ち合わせ場所となる。     先に来て待っている、横内、笠原。     遅れてやってくる杉浦。 笠原  杉浦さーん、こっちこっち。 杉浦  おはようございます。 二人  おはようございます。 杉浦  会社の人は? 笠原  さっき一度顔見せた後、またどっか行っちゃいましたよ。 杉浦  ええ? 横内  「すぐ戻ってきます」って。 笠原  なんだかバタバタしてたみたい。担当だった人が来られなくなったとかって。 杉浦  大丈夫なんですか? 笠原  さあ。平気なんじゃないですか? 杉浦  何で? 笠原  なんとなく。 杉浦  根拠なく言わないで下さいよ。 横内  大丈夫ですよ、ほら、あそこで電話してます。 杉浦  あ、ほんとだ。 笠原  きっと代わりの人を呼んでるんですよ。ほら、平気でしょ。 杉浦  ……。 笠原  杉浦さん、納得したから来たんでしょ。ここまて来てまだ疑ってるんですか? 杉浦  納得したからこそ、ちゃんとした運営を望んでるんです。当然でしょ。 笠原  ああ、はいそうですね。 横内  まだ7時前ですね。眠ーい。 笠原  集合時間は7時だよね。杉浦さん、時間前だもの、少しくらいバタバタしても大     目に見ましょうよ。 杉浦  ああ、はいそうですね。 横内  遠足みたいですね。あたし昨日眠れなくって。 笠原  どこに連れてかれるんだろ。 横内  自殺の名所を巡ったりするんでしょうか。 笠原  怪しまれないようにそういう場所は選ばないってきいたよ。 杉浦  そうなんですか。 笠原  ええ、青木ヶ原の樹海なんかはもちろん、自殺者が3人以上出てるような所は避     けるんだそうですよ。なんでも、地元の人が警戒するようになるから、怪しまれ     ちゃうんですって。 杉浦  初めてききました、そんな話。もっとちゃんときいとけばよかった。 横内  あ、係の人、来ますよ。     木田、慌てた様子でやってくる。 木田  ええと、お待たせしてすみません。…もう少々お待ちください。(去る。) 笠原  私達は大丈夫ですからー。ああ、今やっと集合時間だ。 杉浦  …相当取り込んでるみたいですね。 笠原  何があったんだろ。 杉浦  ほんとに大丈夫なんでしょうか。なんだか出ばなをくじかれてるみたい。 笠原  杉浦さん。 横内  あの。 笠原  なに? 横内  さっきから気になってたんですけど、あの人…。     見るといつの間にか男が一人隅っこで三人の方をじっと見ている。 杉浦  そう言えば、このあいだもうひとり来るって言ってましたよね。 笠原  ああ、都合で来られなかった…。声かけてみましょうか。 横内  やめましょうよ、なんだかあの人気味が悪いですよ。 杉浦  そうですね。なんだか妙に思いつめたような… 笠原  何言ってんですか、それはこっちも同じですよ。 笠原  知らぬは本人ばかりなりってね、こんな山奥のドライブインで、そんな身なりし     てるなんてむちゃくちゃ不自然ですよ。 杉浦  あたしはただ最期を美しく飾ろうと… 横内  ねええ、見てますよお。すごい目で見てる。変質者だったらどうしましょう。 笠原  目が悪いんじゃないの。     横内、腕でCの字を作る。男、片目を押さえ、穴のあいた方を指差す。 横内  目は悪くないですよ。 杉浦  あっ、笑った。こっち見て笑ってます。 笠原  あのー、ツアーに参加する方ですか? 田中  (無言でうなづく) 笠原  やっぱり。 横内  ほんとうですか〜? 杉浦  お仲間なんですね? 田中  (うなづき) 笠原  自己紹介しましょう。わたし、笠原といいます。 杉浦  杉浦です。 横内  よ、横内です。 木田  田中さん。よかった、いらしてたんですね。 田中  (ものすごく低い声で)どうも。 木田  ええとでは、皆様お揃いになったところで変更を伝えさせていただきます。 杉浦  なんですか。 木田  急病によりツアーの担当の者がこられなくなりました。そこで善後策として、社     の方からはわたしに代理をやるようにと承ったわけですが…。 横内  …はい? 木田  駄目でしょう。 笠原  何がですか? 木田  今回のツアーが。 杉浦  どういうことですか。 木田  一生に一度の大事な日ですよ。案内人はベテランがいいでしょう。 杉浦  ええ、そりゃまあ。 木田  わたしはね、新人なんですよ。勤務1年目で、ツアコン経験もまだ1回だけの、     つまり大変不馴れな案内人なわけです。 笠原  はあ。 木田  そんな人間に、案内されたくないでしょ。 杉浦  それはつまり、ここに来て中止にしたいということですか。 木田  いえいえいえ、飽くまで皆さんが、今の話を聞いて、今日はやめる気分になりま     せんか?ということで… 横内  言ってることがよくわかんないんですけど。 木田  ですから、今日は、やめる、気分に、なってたりしませんか?と。 杉浦  それゆっくり言い直してるだけじやないですか。 笠原  要は、あなたの都合で中止にしようってことでしょ。 横内  ああ、そう意味なんだ。 笠原  そうとしか聞こえないでしょう。 杉浦  どういうことですか。 木田  どうもこうも、急病じゃあしょうがないでしょう。 杉浦  その人はしょうがないんでしょうが、あなたは… 木田  木田です。 杉浦  木田さんは病気じゃないんでしょ。 木田  多少、頭痛がしてます。 横内  クスリありますよ。 笠原  用意がいいね。 横内  だって、ふくどく自殺は苦しくないって言うじゃないですか。 木田  ああ、それウソですよ。しかも頭痛薬じゃ相当飲まなきゃ死ねないし。 笠原  それだけ詳しけりゃ大丈夫ですよ。案内して下さい。 木田  知識と経験は別物でしょ。申し訳ないが、勘弁して下さい。ほんと言うと向いて     ないんですよ、この職業。 笠原  そんなこと知りませんよ。私達は、そちらの指示で、指定の場所に、指定の時間     に来ているんですよ。呼び出したからにはそれなりの責任てものがあるでしょう。     しかもあたしたち、うちには遺書まで置いてきてるんですよ。今からどのつら下げ     て帰れって言ってるんですか。 木田  なーんちゃってと言いながら… 笠原  帰れるわけないでしょう。 杉浦  あなたにとどめをさしてもらうわけじゃないんでしょ、何かそんなにいやなこと     があるんですか。 木田  …。 杉浦  やっぱり詐欺? 木田  違いますよ。…いやじゃないわけないでしょう。 杉浦  何が? 木田  …あなたがた自殺希望者ゾロゾロ連れて歩くのも、ついて行くのもいやなんです     よ。他の人ならどうだか知りませんがね、わたしはそんなのとても… 笠原  つまり、やっぱりあなたの都合なんですね。あなただけの。 木田  そう…ですよ。 笠原  ねえちょっと、今帰る気になってる人いますか。いませんね。あなたの都合は無     視します。連れてって下さい。 木田  困った人たちだな。 笠原  困っちゃうのはあなたですよ。 木田  …あのねえ、セミナーの時にもきいたと思うけど、自殺幇助は罪なんです。あな     た方俺を犯罪者にする気ですか。 杉浦  そうか。そうでした。この会杜のやってる事自体が犯罪なんですよね。 笠原  杉浦さんナイス。 横内  連れてってくんないなら警察にちくっちゃうぞ。 木田  ちょっとお。 笠原  さ、いい加減腹をくくって下さい。そんなに嫌ならさっさとやっちゃいましょう     よ。 横内  そうですよ。ぱぱっと。でないと新聞社にもちくっちゃうぞ。 笠原  あなただってせっかく苦労して入った会社がこんなに早くつぶれるのは嫌でしょ     う。 木田  ……。 笠原  ほら、度胸据えて。新人で代理を立派に勤められたら、上司からの評価も上がり     ますよ。 木田  よけいなお世話です。 杉浦  あのー。 笠原  どうしたんですか。 杉浦  今から代理の代理の方は呼べないんですか? 笠原  なに言うんですか。 杉浦  だって、この人じゃやっぱり不安ですよ。 木田  そ、そうでしょ!?あのね、代わりの人間はいないでもないんですよ、明日になれ     ば。ね、明日にしませんか?     杉浦、深いため息。 杉浦  明日じゃダメです。 横内  あたしも明日は空いてるけど今日がいいです。 木田  なんで。 杉浦  今日やるんだって決めてきたこの覚悟をどうしてくれるんですか。 木田  そういうもんですか? 杉浦  ええ。 笠原  明日は約束があるからダメですう。 杉浦  約束う? 笠原  冗談です。 杉浦  笑えません。…もういいです。いきましよう。 木田  いいんですか。後梅しますよ。 杉浦  後梅ならもうしてます。何だってこんな人たちと…。 笠原  今こんな人たちとって言いました?こんな人たちとって。 横内  あたしも入ってるんですか? 杉浦  いいから早く連れてって下さい。 笠原  だそうです。連れてって下さい。     今度は木田が深いため息。しゃがみ込み、何やらつぶやきながら資料のページ     をめくる。 木田  なんだって俺がこんな目にあうんだ。誰だ、誰だ、誰だ。綾乃小路だ。あいつだ。     あいつのせいだ。だいたい本当に風邪なのか、また趣味の発掘でもやってんじゃ     ないか。… 笠原  声に出てるよ。 横内  この人が死んじゃいそうですね。 木田  …分かりましたよ。行きますよ。連れてけばいいんでしょ。 笠原  連れてけばいいんですよ。 木田  ちょっと待って下さいね、今マニュアル読みますから。 横内  やけになってません? 木田  〈棒読み)えー、それぞれの希望がございますので、順番をお待ちいただくこと     になります。タイムテーブルはこちらからお知らせした通り… 杉浦  ちょっと、真面目にやって下さい。 木田  まじめ?真面目ってなんですか、綾乃小路さんみたいにわっざとらしい節回しで     マニュアル読むことですか?どうせ中身は一緒ですよ。 笠原  感じわるー。 木田  まずは田中さん。よろしいですね。 田中  (ニヤリとうなづく) 木田  はい、では早速ですが始めましよう。 杉浦  ちょっと待って下さい。もう、今ここでやるんですか? 木田  ええ、すぐに。 横内  今すぐに? 木田  もうすぐに。じゃ、その前に田中さん、確認事項をチェックさせていただきま     す。1、チラシ・パンフレット等の関係書類の焼却破棄。 田中  (うなづく) 木田  燃やしました? 田中  (うなづく) 木田  2、身分の分かるものを携帯。 田中  (財布の免許証を見せる) 木田  免許証? 田中  (うなづく) 木田  3、遺書。 田中  (封筒を出す〉 横内  書いてる! 木田  書いてますよ。でも濡れちゃいますよ、何でお家に置いてこなかったんですか?     まあいいでしょ。靴と一緒に置いておきましょう。 杉浦  誰も見つけなかったらどうするんですか。 木田  …わかりましたよ、こっそり田中さんちに屈けます。じゃ、移動します。     木田を先頭に動き出すが、横内だけ困って動けない様子。 横内  しつもん。 杉浦  あの、質聞していいですか。 木田  どうぞ。 杉浦  あの、彼は入水自殺をするんでしょうか? 木田  いえ、飛び降りです。そこの崖で。 横内  しつもーん。 杉浦  それで私たちは… 横内  どうぞ。 杉浦  それで私たちは、その、飛ぴ降りを見学するんですか? 木田  いいえ、見学ではありませんし見なくてもけっこうです。 横内  しーつもーん。いいですか?(←杉浦に)「入水」とか「飛び降り」って何でや     る前に靴を脱ぐんですか? 木田  さあ。 杉浦  そんなのどうだっていいでしょう。 横内  気になりませんか? 笠原  あたしちょっと気になるなあ。 木田  あなたまで。 笠原  木田さん知らないんだ。 木田  …幽霊には足が無いからじゃないですか。 笠原  靴はいらないって? 横内  そっかー…。 木田  納得しましたね。じゃ、移動しま… 横内  あのー。 木田  まだ何か? 横内  あたしここに残って遺書かいてていいですか? 木田  別にかまいませんが、遺書は… 笠原  無理に書かなくていいんだよ。 横内  それがですね、もう1回書いてうちに置いてきたんですけど、ですけどなんか気     に入らないというか、気合が入ってないというか…ダメなんですよ。 木田  それで。 横内  いよいよ近づいてくれば何かいいことが書けるかと思ったんですけど、ですけど     まさかこんなすぐ始まると思ってなかったし、あんな人もちゃんと書いてると思ったら。 木田  それはつまり書き直したいってことですか? 横内  そう言ってたんですけど。 木田  それで1回目のとすり替えるんですか? 横内  いえ。あれはあれとして、名作は名作として。 木田  で、その名作は誰にわたせばいいんです。 横内  うーん、身に付けときます。 笠原  …いいんじゃない。 木田  …いいです。お好きになさって下さい。はい、… 笠原  はい、他になにか発言のある人。…じゃ今度こそ出発。 木田  先いかないで下さい。こちらです。 杉浦  どのくらい歩くんですか。 木田  すぐそこです。 杉浦  すぐそこ。 木田  ええ、ほら、あそこです。あそこの断崖絶壁。 杉浦  目の前ですね。 木田  だからすぐそこでしょ。 笠原  へえ、いかにもな感じだけど… 木田  穴場なんです。さ、行きましょ。     4人去る。横内、4人を見送る。遺書を書こうとするが、気になって進まない。     杉浦、すぐ戻ってきてうずくまる。 田中  ふううわあああああああああああああああああああ!!!!     杉浦、横内、慌てて木田たちの退場した方角を見に行く。     すぐに木田、笠原戻ってくる。 木田  (携帯電話で、小声で会社に連絡を取りながら登場。)7時13分、1197番・田     中史一さん、飛び降り。確認お額いします。 杉浦  た、田中さんは…? 木田  思いを遂げられました。(顔が青い。) 笠原  わたし、人の死ぬとこ初めて見ちゃいました。 横内  お二人とも大丈夫ですか?顔真っ青。 木田  すみませんね、なんたって新人なものですから。 杉浦  私、とても見てられなくて… 笠原  見なくて正解ですよ。なんだかあたし、ちょっと気がそがれたような… 木田  さ、早いとこ次の場所に移動しましょう。 杉浦  ちょ、ちょっと待ってください、田中さんの御遺体は?そのままにしていくんです     か? 木田  御心配は無用です。この谷底に流れている細谷天神川は下流に町がありますか     ら会社のアンチョコに書いてあった実験によれば今日の夕方には水死体として発     見されるはずです。 横内  ぬかりないですね。 木田  新人に現場任せるぐらいですからね。そのへんは自信あるんじゃないですか。     …横内さん、書けました? 横内  まだです。時間ありますか? 木田  …休憩にしましょう。私ちょっと、行ってきます…。 笠原  わたしもっ。     二人、ハンカチで口を抑えつつ、退場しようとする。 横内  ああっ。     全員横内を見る。 木田  どうしたんですか。 横内  なんでもないです。 木田  どうかしたんですね。 横内  いえ、どうぞ行って下さい。…げあっ。     全員横内を見る。 笠原  何でもいいから早く言って。 杉浦  気になるから。 横内  …遺書、持って来ちゃいました。 木田  何だそんなことか。いいですよ、この際1通も2通も手間はかわらない。 横内  それから…。 笠原  まだあるんだ。 横内  …。 笠原  いっぺんに怒られといたほうがいいでしょう。 木田  2倍怒りますけどね。 横内  かわりにそちらの会社から来た手紙置いてきちゃいました。     木田、よろめく。 横内  ごめんなさーい。 木田  いいかげんにしてくれよ。 横内  わざとじゃないんですよ。 木田  当たり前ですよ。わざとやられちゃたまんないよ。あー、よけい気分悪くなって     きた。とにかく行ってきます。話はそのあとで。(去る。すぐ戻る。)横内さん、     さっきの薬もらえる? 横内  どうぞ。 杉浦  笠原さん、大丈夫なんですか? 笠原  …やっぱり行ってきます。〈去る。)     二人きりになる杉浦、横内。     と、横内急に立ち上がる。 横内  杉浦さん、あたし向こうで遺書書いてきます。 杉浦  え?でも 横内  お二人が戻ってきたら、呼んで下さい。 杉浦  はあ。     横内も去る。一人残された杉浦、ぐったりしている。そこに桂川登場。 桂川  ちょっと。ちょっとすみません。この辺で女の子、見かけませんでした? 杉浦  どんな人ですか? 桂川  19歳、大学生、思いつめた感じの。 杉浦  見てません。 桂川  ほんとですか? 杉浦  ええ。 桂川  あなた、どのくらい前からここに? 杉浦  2、30分てとこですけど。 桂川  ほんとに見ませんでした? 杉浦  見てません。 桂川  おかしいな、この時間はここにいることになってるのに…。(横内が間違えて置     いてきた自殺のタイムテーブルを広げる。) 杉浦  …あ。 桂川  え…、知ってるんですか!? 杉浦  いえ、あの… 桂川  知ってるんですね!!教えて下さい、あの子どっちに行きました? 杉浦  そうじゃなくて… 桂川  何なんですか?はっきり言って下さい。今は一刻を争うんです!早くしないと、     あの子自殺しちゃうんですよ! 杉浦  そ、その紙… 桂川  え?え? 杉浦  …。(思わずそっぽを向く。) 桂川  なんですか?なん…もしかして、もう…。 杉浦  (目をあわせてしまう) 桂川  そうなんですね…。 杉浦  い、いや… 桂川  久美子おおおお!(泣き出す。) 杉浦  ちょっと。     一方、木田と笠原。 木田  …。 笠原  …。 木田  よろしくお額いします。 笠原  あ、こちらこそ、よろしくお願いします。 木田  よかった笠原さんがいてくれて。 笠原  何言ってんの、あたしは飽くまでサポートです。 木田  そんなあ、冷たい。 笠原  さっきの、ほんと? 木田  さっきのって? 笠原  綾乃小路さん。病欠なんて無責任な…。 木田  ほんとですよ。もうまいっちゃって。 笠原  木田さんだって同じでしょ。あたしだってまいっちゃいますよ。何なんですか、     今日は、止める気に、なってたり… 木田  しょうがないでしょ。俺ほんとに自信ないんですから。 笠原  かってに中止にされちゃ困るんですけど。あたし今月、これしか依頼がないんだ     から。家計かかってるんですよ。 木田  …すみません。 笠原  突っ走んないで下さいよ。一応チームなんだからさ。 木田  今日の…、失敗したらやっぱり俺たちのせいってことになるんでしょうかね。 笠原  そうでしょうね。 木田  ああ、俺ってついてないなあ。 笠原  ひょっとして木田さん、リストラの対象にでもなってるんじゃない? 木田  ちょっと、冗談やめて下さいよ。 笠原  あたしはバイトだから、別に間係ないけどお。 木田  たのみますよ。 笠原  まあ今のところは失敗もないし、なんとかやれるとは思うけど。 木田  ほんとにそう思います? 笠原  …たぶん。 木田  笠原さん。 笠原  大丈夫。あたしの見たとこじゃ、今日の二人はうまくいくパターンだと思う。 木田  さすがベテランアルバイト。 笠原  学生時代からやってるからさ、第一印象で大体わかるんだよね。現に杉浦さんな     んか田中さんの飛び込みで大分退いちゃった感じでしょ。 木田  そうでしたっけ。 笠原  木田さん、どこ見てたの。何よりそういうとこに気をつけなきゃ。 木田  自分のことで精一杯で。高所恐怖症なんですよ。 笠原  何だ、ほんとに気分悪かったんだ。あーあ、これだから新人はさあ。 木田  (ムッとする。)どうでもいいですけど、いつの間にかタメ口ですね。 笠原  え?なんで、だめ? 木田  俺多分笠原さんより年上だと思うんですけど。 笠原  実年齢じゃ年上かもしれないけど、職場ではあたしの方が先輩でしょ。タメ口き     いたっていいじゃない。 木田  …。 笠原  そういうどうでもいいことばっかり気にしてちゃ出世できないよ。 木田  余計なお世話です。 笠原  そうだ、田中さんと連格とった? 木田  いや、それがさっきから携帯にかけてるんですけど、留守電になったままで。 笠原  え、まさかほんとに死んじゃってたりして。 木田  ええ…、ま、まさかあ、だってプロなんでしょ、あの人。 笠原  だよねえ、あはははははははは。     一方、桂川と杉浦。 桂川  (ずっと泣いている。)久美子お、ごめんね、助けてあげられなくて。 杉浦  あのー。 桂川  (泣いている。)でもどうしてこうなる前に相談してくれなかったの。 杉浦  あのー。 桂川  あたしならいつても何でも相談に乗ってあげられたのに。こんなわけわかんない     会社に相談して…。 杉浦  そのくみこさんて… 桂川  え、なんか言いました? 杉浦  だから…その、くみこさんて 桂川  あたしの後輩です。 杉浦  はあ。 桂川  ルームメイトなんです。 杉浦  そうなんですか。で、そのくみこさん… 桂川  一緒に暮らしてるのに気付いてあげられなかったなんてー。(抱き付いて泣く) 杉浦  あの、きいてます?     笠原、木田戻ってくる。 木田  どうしたんですか。 笠原  杉浦さん、その人誰? 杉浦  ちょっと、助けて。 木田  あの、どちら様? 桂川  (木田の持っている薬ビンを見つけて)その薬ビン! 木田  え?これ? 桂川  久美子のだ。ここしばらくそれ持ち歩いてた…。 木田  久美子?あ、横内さんのこと? 笠原  久美子ちゃんのお知り合いの方? 桂川  じゃあんたたちがあの会社の…。じゃあじゃあ、その薬で久美子を殺したんだ。 木田  な、何言ってんですか。 桂川  久美子を返せー! 木田  あいたっ!やめろ、落ち着け 笠原  久美子ちゃんは? 杉浦  遺書かくって向こう行っちゃって。 笠原  どうしよう、呼んできた方がいいかなあ。 杉浦  でも久美子違いじゃありません?あの人大学生の女の子を捜してるって… 笠原  久美子ちゃん大学生ですよ。 杉浦  ほんと!? 笠原  本人はそう言ってましたよ。 杉浦  あれでお酒飲んでもいいんだあ。 笠原  一年生ならまだ飲めない人がほとんどですよ。 杉浦  でも大低お構い無しで飲んじゃうもんでしょう。 木田  そこ、どうでもいいこと話してないでこの人何とかしてよ。     横内顔を出す。 横内  騒がしい、ですよ。集中して書けないじゃないですか。 桂川  久美子! 横内  先輩? 桂川  よかった、まだ生きてる!(抱き付く) 横内  追いかけてきちゃったんですか? 桂川  びっくりしたよ、起きたらいないんだもん。それにあの手紙でしょ。 木田  (桂川の落とした手紙を拾う)これか。 横内  ああ、あれ間違えたんですよ。 桂川  とにかく間に合ってよかった。 横内  こっちが本物です。はい。(桂川に遺書を手渡す。) 桂川  ……。 横内  あ、木田さん、薬効きました? 木田  え、ええ、おかげさまで。ありがとう。(ビンを返す。) 横内  じゃ、あたしまだ書き終わってないんで。(去る) 桂川  久美子お。 杉浦  恐ろしくマイペースな子ですね。 笠原  そうなんですよ、意外に。 杉浦  あれで大学生… 笠原  杉浦さんそんなに信じられません? 杉浦  いやー、だってあたしてっきり中学生ぐらいだと… 笠原  確かにあたしも高校生かなーとか思ってま…     桂川が振り返る。全員一瞬身構える。 桂川  これ…。 笠原  あ、遣書だと思うよ、久美予ちゃんの。 杉浦  笠原さん、遺書だなんて刺激したらまた…。 笠原  じゃなんて言えばいいんですか。 桂川  ……。 笠原  あの、あなたは、久美子ちゃんの? 杉浦  大学の先輩みたいですよ。 桂川  寮のルームメイトです。 笠原  そうなんだ。お名前は? 杉浦  また自己紹介ですか。 笠原  いけません?人と人とのコミュニケーションはまず自己紹介からですよ。わた     し、笠原佳也。あなたは? 桂川  桂川朋美です。あなた達、自殺なんとかって会社の方ですね? 杉浦  ち、違います。 笠原  あのひとだけです。 木田  笠原さん! 桂川  (木田の方へ行く) 木田  (無言で逃げる。) 桂川  痛かったですか? 木田  い、痛いに決まってるじゃないか。 桂川  さっきは頭に血がのぼってて。 木田  …まあ、冷静になってくれればこっちだって話のしようが… 桂川  今度はもっと痛い目にあわせます。 木田  ちょっと。 桂川  久美子は連れて帰ります。邪魔するんなら、あわせます。 木田  …だれかたすけてー… 杉浦  助けてあげたら? 笠原  どうしてわたしが? 杉浦  だって笠原さん見て言ってますよ。 笠原  気のせいですよ。 桂川  文句ありませんよね。連れて帰ります。 木田  あ、あの、横内さんのルームメイトとおっしゃいましたよね。 桂川  ええ、それがなにか? 木田  御家挨から何かお話… 笠原  あのさあ!久美子ちゃんはどうだろう。 桂川  は? 笠原  あなたが連れて帰るって言ってもさ、久美子ちゃん本人は帰りたくないんじゃな     いかなあ。 桂川  そんなことあなたにわかるんですか。 笠原  あたしも、このツアーに参加してる一人だもん。 桂川  それが? 笠原  別にあたし達、強制されてここにいるわけじゃないってこと。久美子ちゃんだっ     て自分の意思でいるんだと思うなあ。 木田  そ、そうなんですよ。僕はね、今日のツアーは中止にしようと思ったんですよ。     それなのに、この人達がどうしてもって言うから… 桂川  なんでそこで退いちゃうかな。 木田  しょうがないでしょ、結局仕事なんですから。 笠原  連れてかないと警察にちくっちゃうぞって言ったんだよね。 桂川  そんなの脅迫じゃない。 笠原  久美子ちゃんが。 桂川  ……。 笠原  ね、杉浦さん。 杉浦  え、ええ。 桂川  うそだ。 笠原  ほんとだもん。 桂川  全員でグルになって久美子をどうする気。 笠原  だーかーらー。 木田  うごごごごご…(桂川にネクタイを絞められている。) 杉浦  あのー。 笠原  なにっ?杉浦さん。 杉浦  久美子ちゃんの遺書…。それ、久美子ちゃんが自分の意思でここにいるってい     う、証拠にならないですか? 笠原  そうだ、遺書。 桂川  あんた達が書かせたのかも知れない。 笠原  あーもーこの人はー。 杉浦  一応読んでみたら?久美子ちゃんが何を考えてるのか、ちょっとは分かるかもし     れませんよ。          桂川、しぶしぶ遺書を開く。 桂川  「今日も晴れ、咋日も晴れ、明日も晴れ。電気スタンドのように長くなるといわ     れたわたしの足はもう手遅れ。パソコンの上においたカラヤンパはいつも鉛筆を、     パパヤンカは自分の頭を一生懸命ささえて、世の中のダークな気分を還元するのだ。」 木田  ちょっと待て、それほんとに遺書か? 杉浦  (覗き込んで)い、一応遣書って題されてますよ。 桂川  「ノストラダムスは来なかった。」 笠原  …ノストラダムスは来ないでしょう。 桂川  「来たら終わりだと思っていたのに、来ないので終わらない。でも、実を言うと     ウソだとも思っでいた。4対6くらいで。」 笠原  …困ったね。 桂川  あなた達が書かせたのではないことは分かりました。 木田  わかってもらえましたか。 桂川  でも久美子が何を考えてるのか全然わかんないじゃない。 杉浦  おこんないで下さい。わたしのせいですか? 笠原  思った以上に手強かったね。 木田  むしろ哲学的だな、これは。     横内、なんだか慌ててだだだと駆け込んでくる。 桂川  久美子、どうしたの? 横内  え?あれ、それあたしのじゃありませんか。 笠原  ああ、読ませてもらっちゃった。 横内  いま読まないで下さいよ。恥ずかしいじゃないですか。 木田  いや、なかなか面白かったよ。 杉浦  意外と文才あるんじゃない。 横内  やめて下さいよ、照れるじゃないですか。 桂川  でもね久美子、あたし、こんなものを受け取るわけにはいかない!(びりびりと     遺書を破る。) 横内  ああー! 木田  何も破らなくても。 横内  これはこれで名作だったのにー。 桂川  遺書の名作なんかあたしはほしくないの。 横内  じゃあ他の人にあげればいいじゃないてすか。破いちゃうなんてひどいですよ。 笠原  そうだよ。久美子ちゃんすごく悩んで書いてたんだよ。 桂川  何でそんなこと知ってるの? 笠原  仲間だもん。ねえ。 横内  一生懸命考えて書いたのに。 桂川  …ご、ごめんね、つい勢いで破いちゃった。 笠原  カッとなるたちなんだねー。 木田  あんたの方がよっぽど危ない人だよ。 桂川  (きっ) 杉浦  久美子ちゃん、何か用事があったんじゃないの? 横内  え? 杉浦  慌ててたじゃない。 横内  ああ、そうなんですよ。あの、変なんですよ。 木田  変って、何が。 横内  なんだか視線を感じるんです。 笠原  今度こそ変質者!? 杉浦  姿は見た?どんな人? 横内  さあ、わかんないです。…杉浦さん、何で嬉しそうなんですか? 杉浦  べ、別にそんなことないよ。今は?誰か見てる? 横内  …ような気がする。     全員あたりを見回す。杉浦、しきりに髪など、身なりを整える。     実は田中がこそこそ窺っている。しかしタイミングよく見つからない。 桂川  久美子、逃げよう。 横内  何で逃げるんですか? 桂川  変質者がいるんでしょ。 笠原  あー、どさくさにまぎれて。 桂川  何?正当な理由じゃない。 笠原  いまムリヤリ連れて帰ったって、またいつかしちゃうんじゃないかなー。 桂川  いつかはない、あたしがさせない。 笠原  勢いだけで、説得力ないよ。 桂川  あんた大嫌い。 木田  ブレーク。ブ、レーク。     杉浦、木田、二人に割って入る。木田、笠原を連れて離れる。 木田  こういう場合、どうすればいいんですか。 笠原  自分で勝手に判断してよ。 木田  判断できないから聴いてるんだよ。 笠原  あ、タメロ。 木田  あの先輩は、帰した方がいいんですか、それとも横内さんごと帰した方がいいん     ですか。 笠原  うーん、二人とも帰さない。 木田  本当に!? 笠原  あたしの長年の勘がそう言ってんのよ。 木田  信頼できるんですか、その長年の勘ていうのは。 笠原  あたしは信頼してるんだけど。 木田  …失敗したら責任とって下さいよ。 笠原  えー。 桂川  何こそこそ話てんの! 木田  いいえ何にも。あの、横内さん、えー、あなたが見た変な人ね、地元の人かもし     れませんね。 横内  そうなんですか? 木田  あの崖があんまり自殺者を吸い寄せるもんだから、周辺住民が交代て警戒してる     という情報があるんですよ。 杉浦  さっき穴場だって… 木田  確かに死亡者は出てないんですけどね、未遂者が多いんです。 杉浦  でも怪しまれないようにそういう場所は選ばないんじゃないんでした? 木田  誰がそんなこと言ったの? 横内  笠原さん。     木田、笠原をきっと見る。 笠原  あ、あっれー、噂でそうきいた気がしたんだけどなー…。 杉浦  また根拠のない話だったんですか。 木田  うちでそんな話はしてません。第一お客さまが希望してるならそれを無視するわ     けにいかないですし…今回は田中さんが「名所で飛びたい。」という希望だったみ     たいですね。     杉浦・横内・桂川、微妙に納得いかない表情。 杉浦  それで私たちはどうしたらいいんですか。 木田  自然に振舞いましょう。 杉浦  自然って… 木田  そうですね、会社の同僚たちのピクニックでも装いましょうか。 桂川  どうしてそこまでやる必要があるの。 木田  地元民は侮らない方がいいですよ。まず、自殺者だと分かるとどこにいたんだか     十数人もあらわれて、無理矢理ふもとの公民館につれていかれます。そしてよって     たかって命の大切さをとうとうと訴え聞かされるんです。 桂川  いい人たちじゃない。 木田  それが続くこと平均6時間。たまらず思い直したというと、それは良かったって     また3時間延長。私たちコンダクターだって死にたくなります。それに、桂川さ     ん、自分は関係ないと思わないで下さい。いくら止めにきたんだって言っても信じ     てもらえないし、どんな立場でも町の長老大河内さんの2時間半の演説は聞くはめ     になります。 桂川  じゃあどうすればいいっての。 木田  だから、普通に振舞うんです。間違っても「死ぬな」とか「思い直して」なんて     大声で言っちゃいけません。 桂川  わ、わかった。 木田  みなさんも、自殺希望者の気配は消して下さい。     だが全員黙ってしまい妙な空気。 横内  明るく、笑いましょう。     みんな方々を向きにぃーっと笑う。男、隠れる。 笠原  かえって怪しまれたんじゃない。 杉浦  ひょっとしてもうどこかに通報されてるんじゃないですか。 横内  杉浦さんの笑顔、不自然だったから。 杉浦  そうですか。 笠原  木田さんの笑顔もけっこう。 桂川  なんとかしなさいよ。 木田  今考えてますよ。 杉浦  会社の同僚ってことでしたよね。 横内  仲良し5人組ですね。 笠原  とりあえずそれらしい様子を見せてみたら。 木田  そうですね…じゃ、始め。 横内  …お茶くみばっかりで大変だわー。 木田  (つっこんで)いきなり不自然ですよ。 横内  だって、会社のイメージってよく分からないから。 木田  分からないにしたって違うでしょ。 笠原  ハイキングにきてるってのが出てればいいんでしょ。 桂川  ハイキングって…何すればいいの? 横内  レクリエーション。 笠原  なんでそうなるかな。 木田  いや、そういうものかも。 笠原  頭悪いなあ。 木田  (むっとする)バレー。バレーやります、バレー。 杉浦  どこにボールがあるんですか。 横内  なわとびにしません。 杉浦  どこにロープが… 横内  あるでしょう木田さん、丈夫なやつが。     全員ハッとする。木田、バッグから首吊り用に持ってきてたロープを出す。 杉浦  片方持ちます。     木田と杉浦、それぞれはしを持ってロープを回しはじめる。 笠原  ねえ、やっぱり変だよ。 横内  じゃあいきまーす。          ロープに入って眺びはじめる。桂川、笠原ネ躊躇し譲り合う。 笠原  どうぞ。 桂川  いえ、どうぞ。 横内  せんぱーい。 桂川  …だあ。     桂川、跳びはじめる。しかしなおも笠原躊躇する。 横内  笠原さーん。 桂川  笠原さーん。 横内  笠原さーん。 桂川  笠原さーん。 木田  笠原さーん。さあ眺んで下さーい。 笠原  …とあ。     笠原、勢いよく飛び込むが、ロープを踏んでしまいなわとびがとまる。 横内  笠原さん。 笠原  だから嫌だったんだよ。 桂川  へたくそ。 笠原  あんただって躊躇したでしょ。 桂川  あたしはいい年こいてなわとびなんかするのが恥ずかしかっただけですー。 木田  仲良し仲良し。 笠原  大体首吊り用のロープなんか使うから足とられちゃうんですよ。 杉浦・積内・桂川  …こわー。 木田  笠原さん…。 笠原  先輩さんはともかく、杉浦さんと横内さんまで怖がることないでしょ。 杉浦  そうですけど…。 横内  気持ち悪いですよね。 木田  でも横内さんが出せって言ったんですよ。 横内  そうでしたっけ。 笠原  はい、やめやめ。何か別の手を考えましょ。 横内  鬼ごっこしましょう。 笠原  そういうことじゃなくて、今の状況を脱するための対策をね。 杉浦  そもそも、まだ次の場所に行かなくてもいいんですか。タイムテーブルで次は… 木田  杉浦さんでしたね。9時までに大谷海岸。 杉浦  ……。 木田  どうしました? 杉浦  いえ。そうでしたよね。(またキョロキョロしだす。) 木田  時間は間に合わないなあ。現地の効果班に連絡しないと。(少しわきに行く) 笠原  ねえ、変質者は… 木田  周辺往民。 笠原  どうすんですか。 木田  今の仲の良さを見てどっか行っちゃったんじゃないですか。 笠原  アバウトだなあ。 木田  (小声)とりあえず今はあの二人でしょ。 笠原  (小声)大体こんなんで二人を引き止められてんの? 木田  (小声〉任せて下さいよ、帰ることなんか忘れてますよ。 桂川  久美子、帰ろうか。 木田  桂川さん! 桂川  何。 木田  …別行動は控えた方が身のためですよ。 横内  先輩、帰るんですか? 桂川  …久美子、帰らないの? 横内  ええー、何で帰るんですか。 笠原  ほらね。だから言ったでしょ。 桂川  あんたぱ黙ってて。ねえ、ほんとにこんな人たちについてくつもりなの? 横内  そうですよ。 桂川  何で最初にあたしに相談してくれなかったの。 横内  だって先輩、絶対ダメって言うでしょう。 桂川  あたりまえじゃない。 横内  答えが分かってるのに相談したってしょうがないじゃないですか。 桂川  う…。 横内  はい、先輩。(ぼろぼろの遺書をわたす。)まだ全部くっつけてないんですけ     ど、そもそも先輩が破いちゃったんだから、あとで自分で直して下さい。 桂川  へ? 横内  今新しいの書いてるから、そっちあげてもいいんですけど、もう帰っちゃうんで     しょ。今度は大事にして下さい。 桂川  い、いらない。受け取ったらあんた自殺しちゃうじゃない。 横内  受け取らなくてもそのつもりなんですけど。 桂川  ……。 木田  どうするんですか。帰ります? 桂川  うるさいな。 木田  早く決めていただかないと、こちらも動き様がないんですがね。 桂川  勝手に動けばいいじゃない。 笠原  先輩、諦めて帰った方がいいよ。 桂川  うう、…あたしもついてく! 横内  帰らないんですか? 桂川  そう、ついてく。あんたは絶対死なせない。 笠原  ふーん、がんばってね先輩。 木田  決まりましたね、じゃあ先に進みますよ。杉浦さん。 杉浦  はい。 木田  先程の田中さんと同じく、確認だけここでさせていただきます。まず… 杉浦  あの…。 木田  何でしょう。 杉浦  さっきの変質者なんですけど。 木田  ですから周辺住民だと… 杉浦  あたしの知り合いかもしれないんです。 木田  は? 笠原  どうして、そう思うんですか? 杉浦  あたしも置いて来ちゃったんです、そちらから来た手紙。 木田  ええ? 横内  木田さん、杉浦さんもわざとじゃないですよ。 木田  横内さんは黙ってて下さい。杉浦さん! 杉浦  すみません、わざとなんです。 笠原  杉浦さん!? 木田  どういうことですか。 杉浦  怒ってます? 木田  …理由をおきかせ願えませんか。 杉浦  話すべきてすよね、やっぱり。 木田  是非。 杉浦  …1月前、彼に捨てられたんです。他に好きな人ができたからって。 笠原  それてそんなショートな髪なんですね。 杉浦  前は腰までのばしてました。 横内  すごーい、思いきりましたね。 桂川  今どき失恋して髪切る人も珍しいよね。 横内  先輩。 杉浦  どうしても私諦めきれなくて、彼の会社帰りを待ち伏せしたり、電話かけたり、     手紙書いたりしてたんですけど… 笠原  ストーカーですよそれ。 杉浦  全然相手にしてくれなくて。 桂川  当たり前だよ。 杉浦  そんな時、この会社のダイレクトメールが届いたんです。 木田  そこまでは、綾乃小路さんと面談した時の報告書にあります。その先を話して下     さいよ。 笠原  木田さん、そう急かさなくても。 杉浦  …久美子ちゃんがうらやましい。 木田  はあ? 杉浦  先輩のように彼に追いかけて来てほしかったんです。それで、遺書と一緒にタイ     ムテーブルの手紙を入れて彼に送りました。 桂川  うわー。 横内  じゃあさっきの変質者、杉浦さんの彼なんですか!? 杉浦  私の彼は変質者じゃありません。 桂川  元彼でしょ。 木田  …ちょっと待って下さい。杉浦さん、彼が迎えに来てくれたらどうするつもり     だったんですか? 杉浦  もちろん、また彼とやり直そうと… 木田  つまり、自殺する気は最初からなかったということですね? 杉浦  そんなことありませんよ、もし彼が来てくれなかった時は諦めて… 木田  諦めて? 杉浦  ……。 木田  その場合のことは、ちゃんと考えてないじゃないですか。 杉浦  だって、あれだけのことすれば、誰でも迎えに来てくれると思いません? 笠原  どうだろう。 桂川  かえって退いちゃうと思うよ。 木田  ちょっといいですか。杉浦さん、あなた要するに別れた彼とのよりを戻すだしに     このツアーを使ったって言ったんですよ。 杉浦  そう…ですね。 木田  何だと思ってるんですか、このツアーを。 杉浦  あの、ごめんなさい。 木田  ごめんなさいじゃないですよ。あなたうちの会社を詐欺じゃないかって騒いでま     したよね。あなたこそ詐欺じゃないですか。 杉浦  そんな。 木田  そうでしょう。大体あなたが自殺を希望してるって言うから、私たちは希望通り     の自殺の場所や方法を、罪に問われる危険までおかしてコーディネートしたんです     よ。これはつまりお客さまの自殺願望を信頼してこそなんです。あなたは私たちを     騙して彼とのよりを戻す場をコーディネートさせたことになる。 桂川  いいじゃない、サービス業なんだから、これも同じようなもんでしょ。 木田  うちの会社のサービスは、お客さまが思いを遂げられれば秘密は守られるという     ことを前提に行われるんてす。 笠原  それって、つまり、秘密を守らせるために… 杉浦  途中で止めるのは許さないってことですか? 木田  …基本的には。 桂川  ひとごろし。 木田  待って下さい。いくら何でもそこまでは。 杉浦  でも結局そういうことでしょう。 木田  さあ、まだ新人で過去の例には詳しくありませんので。 桂川  とぼけるな。 木田  いや、ただ今回の場合、杉浦さんはうちの会社の手紙を彼に送ってしまってま     す。つまり証拠が残ってしまうんです。こうなったら杉浦さんは生きて帰さなけれ     ばいけません。 桂川  じゃ、久美子も… 木田  横内さんの手紙は幸いあなたが持って来て下さいましたから。(ポケットから出     す。)処分させていただきます。 桂川  あ。(木田にかかろうとするが横内に止められる。) 杉浦  あの、わたし、絶対に秘密は漏らしません。 木田  そう願いますよ。後で誓約書を書いていただきますからね。 杉浦  それで、どうすればいいでしょう。 木田  今日はもう帰って結構ですよ。幸い、迎えの方もいらしてるようですし。 桂川  でもまだわかんないじゃない。 笠原  誰も姿は見てないしね。久美子ちゃん、ほんとに何も見てないの? 横内  視線を感じた後、物音がしてちらっと人陰が見えただけです。 桂川  それじゃ男か女かもわかんないね。 笠原  まだその辺にいるかな。…捜してみようか。 木田  笠原さん。 笠原  なに? 木田  ただでさえスケジュールは遅れてるんですよ。これ以上寄り道させないで下さい。 笠原  ええ?だって次の杉浦さんのはどうせキャンセルでしょ。だったらもうちょっと     ここにいたっていいじゃない。 木田  それはそうですけど… 横内  あっっ!! 桂川  どうしたの? 横内  今あそこに誰かいました! 杉浦  どこ!? 横内  あそこです。(指差す)…もういなくなっちゃった。     笠原、指差された場所までずだだだと走って見に行く。 横内  どうですか? 笠原  もういないみたい。 桂川  (杉浦に)ねえ、違うんじゃないですか? 横内  先輩、何でそんなことばっかり言うんですか。 桂川  だって、ほんとに迎えに来たんなら何で逃げるの。 横内  照れてるんですよきっと。ね、杉浦さん。 杉浦  そ、そうてすね、彼、シャイだから。 笠原  よし、手分けして捜そう。 木田  笠原さん。 笠原  木田さん、あなた向こうの林。久美子ちゃんはあっち、先輩はあっち。杉浦さん     はそっちね。 横内  笠原さんは? 笠原  あたしは作戦本部。ここに残って皆さんの情報を待ちます。それと、荷物番ね。 桂川  ずるいじゃない、自分ばっかし楽して。 笠原  楽したいんじゃありません。頭脳を使うか体を使うかの違いです。 桂川  あんたじゃなくてもいいでしょ。 横内  先輩、そんなことどうでもいいじゃないですか。 杉浦  そうですよ、早く捜しましょ。 桂川  …大体何で関係ないあたしまで捜さなきゃなんないんだよ。 横内  もう、先輩、先に行きますからね。 桂川  わかったよ。行くよ。     横内、桂川去る。既に杉浦も去っている。     二人だけ残った木田、笠原。 笠原  木田さん。何してんの。 木田  いや、あの。 笠原  何? 木田  大したことじゃないんですけどね。 笠原  言いたいことがあるなら早く言いなよ。 木田  …どうでした?さっきの。 笠原  は? 木田  杉浦さんへの対処、一応マニュアル通りと言えばマニュアル通りですけど、うま     く行きましたよね。 笠原  ああ、…そうだね、新人にしちゃ堂々としてたかな。 木田  でしょ。 笠原  えらいえらい。 木田  この後の予定は、笠原さんが事故に見せかけて無惨に死んでみせて、横内さんに     諦めてもらうんでしたよね。 笠原  そうだね。それ、仕掛けの確認してある?気をつけてよね、あたし以前大怪我し     てるんだからさ。 木田  万全を期しますよ。 笠原  お願いします。保険はかけてるけど、本当に死んじゃもとも子もないから。 木田  おっしゃる通り。 笠原  後のことは成功を祈ってるからね。 木田  …それはどうも。でもね、わかんないことがあるんですよ。 笠原  何だろ。 木田  成功を析ってるんなら、何であなたが邪魔するんですか。 笠原  邪魔? 木田  あのまま段取り通り杉浦さんを帰せばやっと一人目クリアだったのに。 笠原  ああ、ごめんごめん。 木田  謝るくらいなら… 笠原  だってさあ、この方が面白いじゃん。元彼が迎えに来てくれて、なんて展開あた     しほっとけなくて。 木田  だからって何も人海戦術まで組まなくてもいいじゃないですか。 笠原  念には念を入れなきゃ。 木田  念を入れる場所が違うでしょ。こんなこと、絶対後で何かしわ寄せが来ますよ。 笠原  大丈夫だよ、あなたと違ってあたしにはキャリアがあるから。 木田  キャリアがあったって失敗する時は失敗するんです。 笠原  失敗失敗ってうるさいなあ。わかってるよ責任取りゃいいんでしょ。 木田  考えてみりゃね、あなたが取れる責任なんてたかが知れてるんですよ。 笠原  何それ。 木田  結局は俺が尻拭いしなきゃいけないのは目に見えてるんだ。 笠原  自分の尻拭いぐらい自分でできるよ。いいじゃないこのぐらいやったって。 木田  主婦の暇つぶしで仕事されちゃ迷惑だって言ってるんだよ。 笠原  …ふーん。 木田  何ですか。 笠原  じゃあ、こっちも言わせてもらうけどさ、あたしだってあんたみたいな新人おし     つけられて充分迷惑してるんですけど。 木田  おしつけられて? 笠原  会社の魂胆はわかってるんだよ。最近経営不振だし、少しでも人減らししたいわ     けでしょ。だからベテランて、正社員希望してるあたしみたいのが煙たくて、わざ     とこんな現場によこしたんじゃない。 木田  え、うちの会社って経営不振だったんですか? 笠原  そんなことも知らないんだ、このバカ。 木田  バ、バカ!? 笠原  この先何かしらで失敗するのはわかってるんだよ。どうせクビになるんだからこ     の位やったって今更かわんないでしょ。     笠原、木田の行くはずだった方向へ。 木田  笠原さん!どこ行くんですか。 笠原  あんたが荷物番してれば。     笠原去る。ひとり残される木田。     一方、別の場所で、横内と桂川。 横内  あっ先輩、どうでした、誰かいました? 桂川  え?ううん。 横内  おかしいなあ、確かに誰かいるはずなんですよねえ。 桂川  もうこの辺にはいないんじゃないの。…ねえ久美子、ちょっといい? 横内  今じゃなきゃだめですか? 桂川  だめ。 横内  何でしょう。 桂川  ねえ、理由は何? 横内  は? 桂川  だからね、何でこんな会社のツアーに申し込んだのか… 横内  何で自殺したいかですか? 桂川  …そう。そのぐらいはきかせてよ。 横内  きいてどうするんてすか。 桂川  力になれることなら、なりたいの。 横内  先輩に力になってもらわなきゃいけないこっとてないと思うんですけど。 桂川  久美子! 横内  (困る)うーん、どうしても話さなきゃだめですか? 桂川  だめ。 横内  うーん。(考えている) 桂川  まさか、世界がメツボーしなかったからとか… 横内  何ですかそれ? 桂川  だって遺書に書いてたじゃない。 横内  あれはあれです。せっかくだから時勢ネタも書いておこうと思って。 桂川  時勢ネタ!? 横内  作品として、いつの時代に書かれたのかは重要でしょ。 桂川  あ…、これって作品だったの。 横内  ええ、遺書ってそういうものでしょ。宮沢賢治とかゴッホみたく、死んだ後あた     しが認められたらきっとプレミア付きますよ。 桂川  それは遺作って言わない? 横内  何か違うんですか? 桂川  これだと遺書を兼ねた遺作っていうかさ、ても遺書の役割は為してないような…。 横内  違うんだあ…。じゃあ何書けばいいんでしょう。 桂川  そりゃ、「先立つ不幸をお許し下さい」とか、「私の遺産は」とか。 横内  (メモしてる)でも遺産なんてないんですよねえ…、後はどんなことを? 桂川  うーん、例えば…。なんであたしが遺書の書き方なんて教えてんの。 横内  え?何ですか? 桂川  理由だよ理由。しれっと話をそらさないで。 横内  そらしたのは先輩ですよ。 桂川  そんなのどうでもいいから。 横内  はあ。うーん、何ていうか、いっぱいあるんですよ。 桂川  いっぱい? 横内  さいのうのこかつとか、いいしれないむりょくかんとか。 桂川  えーと。 横内  ほら、芥川龍之介が、「ぼんやりとした不安」ていって自殺したでしょ。それと     似たような感じなんですよ。 桂川  ……。 横内  わかりました? 桂川  ダメそんなの、納得いかない。そんなんで自殺するなんて許せない。 横内  ほらー、やっぱりダメって言うじゃないですか。 桂川  だって、だって納得できないんだもん。 横内  しょうがないですよね、同じ人間じゃないから。 桂川  それじゃあたしなにもできない。 横内  だからそう言ったのに。 桂川  久美子、思い直してよ。 横内  先輩、そんなこと大きな声で言ったら周辺住民に捕まっちゃいますよ。(去ろう     とする) 桂川  どこいくの? 横内  杉浦さんの彼を捜しに。ほら、先輩も捜さないと。 桂川  …うん。 横内  それじゃ。(去る)     桂川、とぼとぼと退場。     一方、一人で待ってる木田。     隅の方から人陰が近付いてくる。 木田  うわっ。     よくよく見るとぼろぼろの田中である。 木田  た、田中さんでしたか、おどかさないで下さいよ。 田中  すみません。 木田  あれ、ちょ、ちよっと、やばいですよ、何してるんですかこんなとこで。 田中  あの…ギャラを… 木田  ギャラ?…ですか。ああ、そのへんの段取りは綾乃小路さんがわかってるんです     けど、電話してみました? 田中  携帯…なくしちゃって… 木田  ああ、落ちた時に…、だからこっちの電話も通じなかったんですね。 田中  ギャラ… 木田  え、あ、はい、ギャラ、ギャラ…えーと、とにかく今はまずいので、後でこちら     から御連絡しますから。 田中  (うなづく)     木田、田中を向こうへと背中を押して行く。     田中、納得したように去ろうとする。が、すぐ振り返る。 田中  ギャラ… 木田  ですから…、わかんない人だな、必ず御連格しますから。 田中  携帯… 木田  あ、そうか、携帯落としちゃったんでしたね。じゃあ、お宅に回線電話は? 田中  (首を振る) 木田  それじゃしょうがないですねえ。あいにく僕今持ち合わせがないんですよ。…     じゃ、こうしましょう。田中さんからうちの会社に連絡を下さい。いつでも結構で     すから。 田中  (うなづく) 木田  番号、分かりますよね。 田中  携帯に入ってたので…。 木田  そうか、じゃあこれ(メモに書く〉綾乃小路さんか僕…木田の名前を出して下さ     い。いいですね。 田中  (うなづきながらメモに何か書き足す〉 木田  …ひょっとして田中さん、ずっとこの辺うろうろしてたんじゃないですか? 田中  木田さんか笠原さんが一人になるのをずっと待ってたんす。 木田  じゃ変質者はあなただったのか。 田中  俺、変質者じゃないっす。 木田  何て人騒がせな…。とにかく今はここにいちゃまずいんですよ。誰か来る前にこ     こを離れて下さい。すぐに。     木田、田中を逃がし、ひとり安堵の溜息をつく。     すぐに田中の消えた方向から桂川の声がする。 桂川  つかまえたー!杉浦さん、彼氏いたよー! 木田  げっ!     桂川、田中を引きずって登場。 桂川  杉浦さーん。あ、木田…さん。みつけたよ。 木田  か、桂川さん、その人… 田中  木田さん、助けて…。 木田  わーっ 桂川  え?知り合い?     杉浦、横内、笠原、バラバラと戻ってくる。 笠原  いたの?つかまえた?どこ?どこ? 横内  先輩、お手柄ですね。 杉浦  ヒデノリ!来てくれたの…     3人、田中をみて凍りつく。 桂川  ヒデノリ…。 杉浦  (ぶんぶん首を振る) 桂川  え、違うの? 杉浦  違うどころかその人は…。     横内、田中の前に駆け出し視カ検査。 横内  やっぱり、田中さんですよ。 木田  た、田中さーん。 笠原  生きてたんですかあ。 桂川  え?生きてたってどういうこと? 杉浦  あなたが来る前にそこの崖から飛び込んだ方です。 桂川  げっ 横内  死にきれなかったんですね。 木田  いやー、残念です。十分な高さだと思ったんですけどね。こちらの調査不足でし     た。すみません、田中さん。 田中  い、いえ。     桂川、田中のポケットからはみ出ているメモに気付く。 桂川  あれ、これ何? 田中  あ、それは… 桂川  『ギャラ、電話する。綾乃小路or木田』何これ。 横内  ギャラ? 杉浦  これって、何なんでしょう。 笠原  え、えーと、どういうことなんでしょう…。 杉浦  笠原さん、どうしたんですか。 桂川  つまりさあ、この田中さんて人は、会社とグルってことじゃない? 杉浦  そうなりますよね、やっぱり。 木田  いや、あのですね。 横内  田中さんがグルだと、どうなるんですか。 杉浦  そうですね、ええと、な、何がしたいんですか、木田さん。 木田  何がしたいと言われましても… 笠原  あ、あの、話を整理しましょう。 横内  田中さんは、会社とグルになって自殺するフリをしました。…おわり。 杉浦  …それによって木田さんの会社は、何か得するんですか? 桂川  鈍いなあ。この人の自殺を呼ぴ水にやる気の鈍ってる人まで自殺させて、保険金     をせしめる。そんなとこじゃないの? 横内  ひどーい。 木田  うちの会社はこの人たちに保険かけたりなんかしてませんよ! 桂川  ほんと? 笠原  うん。 杉浦  健康診断の類いは受けさせられてませんから、多分。 桂川  久美子? 横内  そうでした。 木田  そうですよ。 桂川  …じゃあ、なんなの。 杉浦  説明して下さい、木田さん。 木田  …ええと、何から説明すれば。 横内  田中さん。 木田  田中さんは、…プロのスタントマンで、このツアーのサクラです。 横内  スタントマンだから、あんな崖から落ちても大丈夫だったんですね。 田中  体はってます。 杉浦  サクラって、何の必要があって… 木田  それは…。 笠原  杉浦さんと久美子ちゃんの自殺をとめるために組まれたツアーだから。 杉浦  笠原さん? 木田  笠原さん! 笠原  もともとこれが目的の会社なんですよ。 横内  …よけいわかんなくなっちゃいました。 杉浦  何言ってるんですか、笠原さん。 笠原  わかんないですか。田中さんだけじゃなく、私もサクラなんです。 木田  笠原さん!何もそこまでばらさなくても。 笠原  だってもう言っちゃったもん。 桂川  あんたまでグルなんだ。 笠原  そう言ってるでしょ。 桂川  どうりで気に入らないと思った。 横内  関係あるんですか? 桂川  人を見る目があるってことじゃない? 杉浦  笠原さん、ウソだったんですか、赤ちゃんの話。 笠原  ああ、ウソじゃないんですけど、さすがに自殺しようとまでは。 杉浦  だって、いかにも育児ノイローゼで、思いつめてて… 笠原  この仕事長いんです。演技も堂に入っちゃって、ごめんなさい。 横内  笠原さん、自殺をとめるのがこの会杜の目的って、どういうことですか。 笠原  うーん、その言葉通りなんだけど。 木田  つまり、自殺を実感させることによって、自殺願望を消してしまおうというコン     セプトなんですよ。 杉浦  あの時声をかけて来たのは、仕事をしやすくするためだったんですか。 笠原  ちょっとでも話した人が死ぬっていうのはやっぱりショックなものでしょ。サク     ラっていうのは、死んでみせる役回りですから。 桂川  そうやってやる気を削ぐんだ。 笠原  そういうこと。 杉浦  …結局、利用されたのはやっぱり私たちの方なんですね。 笠原  え? 杉浦  私や久美子ちゃんの自殺願望を利用して、あなた達は親切の押し売りをしたん     じゃないですか。 笠原  杉浦さん。 杉浦  私たち助けてほしいなんて言いましたっけ。確かに自殺の助けは求めたけど、あ     なた方に止めてくれって頼んだ覚えなんてありません。 木田  それはどうでしょう。 杉浦  何ですか。 木田  基本的に、このツアーに参加を勧める人っていうのは、本気で死ぬ気はないと判     断された人達なんですよ。現に杉浦さん、自分でそうおっしゃったじゃないですか。 杉浦  あれは… 横内  あたしは本気ですよ。 木田  あと本当の理由が曖昧な人。あなたは後者でしょ。 杉浦  どうしてそんなことが分かるんですか。面談だってほんの10分ぐらいで… 木田  2週間程の事前調査があるんです。 桂川  事前調査?ツアーに申し込むとそんなことまでされるの? 木田  厳密に昔うと違います。私たちは、それぞれの御家族からの依頼によりお二人を     調査させていただきました。 横内  うちの家族が何か知ってるんですか? 笠原  うちの会社って本当はカウンセリングが専門なの。そもそもは身内のことで相談     に来た家族にこのツアーの存在を教えて、その身内にダイレクトメールを送る。 杉浦  じゃ、家族はみんな知ってるんですか。私が彼に捨てられたことも、このツアー     のことも。 木田  ええ、あなたが落ち込んでいるのを心配した御家族から依頼を受けました。それ     から、久美子ちゃんは、御両親が週に1度は寮を訪ねるんだってね。部屋に行く度     に自殺グッズが増えてるからって依頼されたの。 横内  過保護なんですよ、うちの親。 笠原  桂川さん、あなた一緒に暮らしてて気付かなかったの? 桂川  …全然気付かなかった。 横内  先輩に気付かれないように、ちょっとずつ増やしてたんです。 桂川  久美子お。     杉浦、突然横内を確保。 杉浦  久美子ちゃん、二人で死のう! 横内  え?はい、いいですよ。 笠原  杉浦さん!? 木田  何をする気ですか、杉浦さん。 桂川  どうでもいいけど久美子まで巻き込まないでよ! 横内  来ないで下さい、先輩! 杉浦  みんなも、近寄らないで! 横内  あっ、あたし刃物持ってます、杉浦さん。(カッターを鞄から出す) 杉浦  ありがと久美子ちゃん。     刃物をぶんぶんと振り回す二人。田中、人知れず陰に隠れる。 木田  やめなさい、危険ですよ。 笠原  どうやって死ぬつもりですか。そこの崖から飛び込んでも死ねませんよ。 横内  それは田中さんがスタントマンだったからでしょう。 木田  いや、実際あの崖は10メートルぐらいの高さだし、下は深くなってるから、大し     て危険じゃないんですよ。 杉浦  あたしが崖を除く度胸がないって踏んでたんですね!? 木田  事前調査で高所恐怖症ってわかってましたから。 杉浦  よってたかってバカにして…。 横内  杉浦さん、あたし薬いっぱい持ってますよ。 杉浦  そうだったね! 笠原  木田さんが言ったでしょ、服毒自殺は難しいんだよ。 杉浦  じゃあ、薬いっぱい飲んで飛び込みます。それならきっと死ねるでしょ。 木田  それなら確かに死ねるかも。 桂川  何感心してんの、何とかしてよ。 笠原  杉浦さん、久美子ちゃん、冷静に、話し合いましょ。 杉浦  いやです、これ以上バカにされるのは耐えられません! 笠原  バカになんかしてません。 杉浦  さっきからおおいにしてます。あたしが、ちょっと不幸そうに見えたからって、     こんなツアーにはめる家族だって。 笠原  杉浦さん、御家族はあなたのためを思って依頼されたんですよ。 杉浦  あたしのため?よく言えますね。そりゃ、体よく彼を呼べるいい機会だって利用     したのは事実てすけど、まんまとこんなまぬけな計画に引っ掛かって、結局あたし     めちゃくちゃみじめじゃないですか。 笠原  それはツアーを失敗させてしまった私たちのせいです。ほんとにごめんなさい。     でも、こんなふうに終わらせても… 杉浦  もうききたくありません。久美子ちゃん、行こう! 横内  はい! 木田・笠原  杉浦さん! 桂川  待って久美子!     杉浦、横内そのまま最初の崖と同じ方向に駆け出す。退場。     が、すぐに田中に刃物を持った各々の手を掴まれて戻ってくる。     刃物はすぐに田中が取り上げる。その場にへたり込む杉浦、横内。 木田  田中さん! 田中  (刃物を木田にわたす〉サービスです。 笠原  ブ、ブラボー。 桂川  久美子おおおお。(抱き着いて号泣) 横内  先輩。 杉浦  ……。 笠原  杉浦さん。あんなふうに終わらせようとするのはひどすぎますよ。あのまま崖か     ら飛んでたら、その瞬間絶対後悔したと思います。 杉浦  後悔してもしなくても私の勝手です。どうして放っておいてくれないんですか。 木田  …はっきり言いましょうか。あなたの御家族から依頼されてるからです。 杉浦  お仕事ですか。そうですよね、あたしが死んだら失敗どころか家族に告訴され     ちゃいますもんね。 木田  どう思われても結構ですよ。私はあなた方のような人間は嫌いですから。 笠原  木田さん! 杉浦  そんなに嫌いなら関わらなきゃいいじゃないですか。木田さん自分で向いてな     いって言ってましたよね。 木田  ええ、言いました。向いてないし嫌いです。でもね、こんな仕事で知り合った客     でも、死なれるのはもっと嫌なんですよ。笠原さんが言ったでしょ。ちょっとでも     自分が関わった人間が死ぬのは嫌なんですよ。俺は今日あなた方と話しをした。     だからあなた方に死んでほしくないんだ。 杉浦  ……。 横内  杉浦さん、なんかあたし達、かっこわるいですね。 杉浦  久美子ちゃん。 横内  何だかあたし、自殺する気分削がれちゃいました。 桂川  本当?じゃあ、一緒に寮に帰ってくれるの? 横内  そうですね。とりあえず、今日は。 桂川  もう死のうなんて考えない? 横内  まあ、当分は。 桂川  遺書の名作もかかない? 横内  そうですね、もっと先にのばすことにします。 桂川  じゃあこれは捨ててもいいよね。 横内  それはそれでとっといて下さい。一応作品ですから。 桂川  …わかった。 横内  杉浦さんは、どうするんですか。 杉浦  どうするって… 横内  お家に帰りますか、彼のところに行きますか? 杉浦  ……。 笠原  杉浦さん。 杉浦  …何ですか。 笠原  あの、考えてみれば、杉浦さんの自殺ポイントは次の大谷海岸だったわけですか     ら、ひょっとして彼、タイムテーブル見てそっちに迎えに来てるかも知れませんよ。 杉浦  ……。 笠原  ちゃんと、根拠のある発言でしょ。 杉浦  気にしてたんですか。 笠原  まあ、ちょっと。 杉浦  すみませんでした。 笠原  いえ、こちらこそ。 杉浦  …家族は彼に今日のことを連絡してるでしょうか。 笠原  わたしにはなんとも。木田さん? 木田  御家族の方からは何もきいてませんけど。 杉浦  そうですか。 笠原  どうします、行かないんですか。大谷海岸て、彼との思い出の場所なんでしょ。 杉浦  そんなことまで知ってるんですか? 笠原  あ、ごめんなさい。 横内  杉浦さん。 杉浦  やっぱり、やめておきます。 横内・笠原  ええー。 杉浦  でもあとで、彼のところに謝りに行きます。 笠原  そうですか。 桂川  久美子、帰ろう。(笠原に)今度は文句ないでしょ。 笠原  ないよ別に。 桂川  行くよ、久美子。 木田  あー、お待ち下さい。横内さん、杉浦さん、これは業務連絡ですが、今回の料金     は、実は前もって御家族からお支払いいただいてるんです。ですからお二人がう     ちの会社に振り込まれた分は後ほどお返しします。 桂川  いくらかかったの? 横内  (きいてない)結構楽しかったです。さようなら。 笠原  元気でね。…あ、ねえ先輩。 桂川  何。 笠原  あたし結構力自慢なんだよねえ。いつか決着つけたいなあ。 桂川  望むところだ。(強そう)     横内、桂川、退場。     座り込んだままの杉浦に、田中が手を貸す。 杉浦  あ、ありがとうございます。 木田  田中さん、さっきのメモ、もう一度お渡ししますね。 田中  どうも。 木田  お電話下さい。 田中  はい。 木田  それと、申し訳ないんですが、車拾っていただけますか、杉浦さんたちに。 田中  わかりました。 杉浦  笠原さん。 笠原  はい。 杉浦  いつか、お子さん連れて、売り場にいらして下さい。 笠原  あたし、ヤマトクのペピー服売り場って結構気に入ってるんです。 杉浦  …お待ちしてます。さようなら。 笠原  さようなら。 木田  …お疲れ様でした。 杉浦、田中退場。 木田  …笠原さん。 笠原  何。 木田  ありがとう。 笠原  なに、改まって。 木田  ほんとに笠原さんがいてくれて良かった、一時はどうなることかと…。 笠原  まあ、主婦の暇つぶしにしてはよくやったでしょ。 木田  その節は、言い過ぎました。すみません。 笠原  いいよもう。ほんとはさ、リストラされる前に好き勝手やっちゃおうって思って     て。ちょっと飛ばし過ぎたね。 木田  笠原さん。 笠原  こういうので人の心を操作しようっての、なんか気持ち悪くてさ。いつかめちゃ     くちゃなことしてやろうとか息ってたんだ。 木田  じゃあ、わざとですか今日の。 笠原  いや、今日のは成りゆき。飽くまで。 木田  そういうことにしときますよ。 笠原  でも結構面白かったよね。 木田  そうですかあ?…とにかく、ありがとうございました。 笠原  いえいえ。でもさ、どうなるかわかんないのはこれからだと思うよ。ツアー中止     にしちゃったのなんて初めて。 木田  えっ、ほんとですか!? 笠原  うん。どうやって報告書書くんだろう。がんばってね。 木田  待って下さいよ。こんな成功だか失敗だかわかんないツアーの報告書、何書けば     いいんですか。 笠原  一応成功じゃない? 木田  そうですか? 笠原  だって二人ともちゃんと思い直したじゃない。 木田  まあそうですけど、でも結果的にそうなっただけで… 笠原  じゃあさ、試合に負けて勝負に勝ったとでも書けば。 木田  笠原さん。 笠原  (きいてない)あ、そうだ木田さん、一つ気になることがあるんだけど、きいて     いい? 木田  …なんですか。 笠原  面談の時から気になっててさ。あれ何の心理テスト? 木田  心理テスト? 笠原  森を歩いていたら動物が道を横切ってどうのっていう… 木田  ああ、あれはね、それらしさを出すために綾乃小路さんがどっかから見つけて来     たんですよ。それっぽかったでしょ。 笠原  ふうん、デタラメ考えたわけじゃないんだ。 木田  ちゃんと元ネタがあるんですよ。「それいけココロジー」かなんかで… 笠原  そんなのどうでもいいよ、早く答え教えてよ。 木田  待って下さい、ええと、確かですね…     木田、笠原、話しつづける。 おわり。 お問合せ info@s-i-m.info