ちえのわ計画 作:益岡礼智 久保田 別れようと思う。 枕崎 (同時に。) 大西 ・・・なんでまた? 久保田 なんでってことじゃないんだ。 枕崎 と言うか、今となっちゃそんなことどれでだって言えるんだよね。 久保田 少なくとも理由は一つじゃないとだけ言っとくよ。 大西 積もり積もったものがお互いにあったってこと? 久保田 枕崎 まあそんなとこ。 大西 仲良かったのに。 久保田 まあ、気は合ってるから。 枕崎 長いこと一緒に暮らしてるから行動パターンがにてきちゃって。 久保田 最近はじゃんけんしてもいつもあいこ。 大西 ほんと!? 久保田 枕崎 うそ。 間。 大西 ほんとに別れようと思ってるの? うなづくふたり。 大西 ・・・そう。でも残念だね。5年も続いたのに。 久保田 そうなんだ、5年も続いちゃったんだ、俺達。 枕崎 勿体無いと思わない? 大西 そりゃ思うよ。 久保田 だろ!? 枕崎 ものすごく勿体無いよね。 大西 う、うん。 久保田 思えばいろんなことがあったねえ、ふみっち。 枕崎 いろんなことがあったねえ、つるるん。 久保田 俺達のキューピッドは西っぺ、きみと・・・ 大西 西っぺ言うな。 久保田 君の元彼の今村君だった。 大西 そ、そうだったねえ。 枕崎 ごめんね。彼との最後の思い出を壊して。 大西 よけいなお世話だ。あのさ、あんた達さっきからあたしをからかってない?大体何で別れることを二人揃ってあたしに報告するの? 久保田 いいところに気がついたね。 枕崎 さすがは西っぺ。 大西 西っぺ言うな。 久保田 君は俺達が付き合い始めたときからずっとそばで見守ってくれてた。 枕崎 あたし達のいろんなことをリアルタイムで共に過ごした、言わば同志のような人だとあたし達は認識してるの。 大西 はあ。 久保田 だから、キミには俺達二人の別れを、最後まで見届けてほしいんだよ。 大西 はあ。 枕崎 わかる? 大西 ・・・・・・ん?うん。見届けるって? 久保田 そう、見届けてほしい。 大西 答えになってない。具体的になにするの?この場であんた達が別れるのを見てれば良いわけ? 枕崎 ちょっと違うなあ。 久保田 うん、違うね。 枕崎 あたし達まだ別れるわけじゃないの。 大西 はあ?じゃ、いつわかれるの? 久保田 3ヶ月後。 大西 なにそれ。 枕崎 急には無理だよお。ねえ、つるるん。 久保田 そおだよお、気が早いなあ西っぺは。 大西 ふざけんな。 枕崎 ふざけてなんかいないよ。なに怒ってんの? 大西 怒ってません。あのさ、からかってるんじゃないんなら、頼むからあたしに分かるように、明瞭に、簡潔に、説明してほしいんで すけど。 久保田 わかんないかなあ。 大西 ええ分かりませんとも。 考え込む二人 大西 まとまった? 枕崎 ええとねえ、つまり、3ヶ月で別れたいの。 久保田 そう。今すぐは無理だから。 大西 何で。 枕崎 さっきも言ったように、あんまり長く一緒に暮らしてたもんだから、日常的なことでお互いに依存するとこが多過ぎるわけ。 久保田 それに急にひとりになったら寂しくなるだろ? 大西 寂しくなるって・・・ 枕崎 あれ、西ちゃん今村君と別れたとき寂しくならなかった? 大西 ええ? 久保田 おれたちは寂しくなると思う。 大西 それは既に別れたくないって言う・・・ 枕崎 違うの、別れたいの、ねえつるるん。 久保田 そう。でもそれと寂しいのは別なんだよ。 枕崎 そんなにすきじゃない家族でも急にいなくなったら寂しいでしょ? 久保田 それと一緒なんだよ。 大西 ・・・・・・。(頭を抱える。) 枕崎 あれ、西ちゃん困っちゃった。 大西 ・・・今すぐ別れたって3ヶ月後に別れたって、どっち道寂しいのは一緒じゃない? 久保田 枕崎 違うよ。 大西 なにが違うの。 久保田 3ヶ月後おれたちは、全くの他人に戻って別れるつもりだから。 枕崎 そう。つき合う前に戻って別れるの。 大西 分かんない。 久保田 何が。 大西 3ヶ月後なら他人になれるの? 久保田 なれるよ。 枕崎 計画通りに行けば。 大西 ・・・あ、あの計画って? 枕崎 そうだ、つるるん、ちゃんと説明しなきゃ。 久保田 そうだねふみっち。はい、西やんこれ読んで。(ポケットか何かから紙を出す) 大西 ・・・なにこれ。 枕崎 計画表。ゆうべふたりでつくったの。 久保田 早く読んで。 大西 はい。・・・・・・。 久保田 つまりはこれに従っておれたちは他人に戻るつもりなんだ。 大西 期間、6月1日〜8月31日。今日から? 枕崎 そう今日から。 久保田 この通りにやればお互いにしこりを残すことなく別れられると思わないか? 枕崎 あたし達せっかく5年間も共に過ごしたパートナーをこれ以上嫌いになりたくないの。 大西 だったら今すぐここで別れたら? 久保田 だからそれは出来ないってさっき言ったばかりじゃないか。 大西 あーはいはいそうでした。・・・なにこの『インストラクター一:大西えり子』って。 枕崎 西ちゃんのこと。 久保田 そう、今日君を呼んだのはほかでもない。君にこの計画の立ち会い人になってもらうためだったのだ。 大西 ええ? 枕崎 見届けるってつまりこういうことなの。 久保田 これから3ヶ月間、おれたちを支えてほしいんだよ。 枕崎 西ちゃん別れのエキスパートでしょ。 大西 そんなものになった憶えはない。 久保田 謙遜するなよ。たくさん経験あるじゃないか。 大西 悪かったな。 枕崎 西ちゃんがいればこの計画はもう成功したも同然!! 久保田 君さえいればおれたちは完壁!! 大西 これから別れるのに完壁も何もないでしょお。 枕崎 あっ、つるるん、西ちゃんにこの計画の名前教えてなかった。 久保田 そうだねふみっち。 大西 お前らまずその呼び方から改めろ。 久保田 (無視する)名付けて、 久保田 枕崎 ちえのわ計画!! 二人、大西を残して部屋を作り始める。 大西 ピンポーン。 枕崎 あ、西やんだ。はーい、どうぞ。 大西 定期検診に来ましたー。 久保田 ごくろうさま。 大西 ・・・この線は? 枕崎 それね、境界線なの。 大西 生活域をわけてるの? 久保田 いや、置き場をわけてるだけ。こっちに俺のもの、こっちにふーみんのもの。 大西 ふうみんん? 枕崎 西ちゃん、前に呼び方変えろって言ったでしょ。 久保田 だからふみっちからふーみんに変えてみました。 枕崎 ちなみにつるるんはつるっちになりました。 大西 そういうことを言いたかったんじゃないんだけど。 久保田 西っぺも西やんね。 大西 どうでもいいよ、そんなことは。 枕崎 西っぺでいいの? 大西 よくない。でもそうじゃなくて・・・あんた達さあ、も一回きくけどほんとに別れる気あんの? 枕崎 あるよお、だからこんなことしてんじゃん。 久保田 そうだ、何のためにやってると思ってるんだ。 大西 なにをいばっとんのだ。 枕崎 西やん何が気に入らないの。 大西 お互いの呼び方。あんた達別れたあともそう呼び合うつもり? 枕崎 うん。おかしい? 大西 せめて名前で呼ぶとしても愛称じゃなくさあ。 久保田 ふーみんをふみと呼べと。 枕崎 つるっちを鶴丸と呼べと? 大西 鶴丸っていうの? 枕崎 知らなかった? 久保田 ふみかあ。何か風情があるなあ。いいかも。 枕崎 そお?あたしあんまり名前で呼ばれるの好きじゃないなあ。 大西 じゃ枕崎。 枕崎 呼びにくくない?つるっち。 久保田 別に。じゃ、枕崎って呼ぼうか。 大西 名字で呼び合うのが無難かもね。 枕崎 久保田? 大西 そう。んで、最終的にはさん付けで呼ぶようになれば他人という感じだね。 枕崎 なるほど、そうだね。 久保田 呼び方で関係性がかわってくるのか。さすがはインストラクター。 枕崎 あ、西ちゃん、立ち話もなんだから座って。どうぞ。 大西 ・・・この線のどっち側に座ればいいのかな。 久保田 枕崎 こっち側に。 間 大西 線の上に座るね。 枕崎 チャップリンみたい。 久保田 そうだね。偽牧師みたい。 大西 はあ? 枕崎 チャップリンの映画にね、あるの、こういうのが。 久保田 脱獄囚のチャップリンが国境をこえてメキシコに逃げようとするんだけど、そこにはインディアンがにらみをきかしてて、かといって戻るとアメリカの警察に捕まるし。 枕崎 だから国境線の上をチャップリンは逃げてくの。 大西 そう・・・あたしチャップリン? 久保田 俺は警察。 枕崎 あたしインディアン。お茶煎れるね。 大西 ああ、ありがとう。 枕崎 はい。久保田。(お茶セットを渡す。) 久保田 はい。(お茶を煎れにいく。) 大西 ・・・・・・・・・・・・。 枕崎 お茶セットはあたしのなんだけどね、煎れるのはつるっちの方が上手なの。 大西 そう・・・、つるっち? 枕崎 あっ、久保田。 大西 はい。 枕崎 で?今回の定期検診は? 大西 それなんだけど、一応目に見えてる分には合格なんだけどさ。 枕崎 だけど? 大西 ええと、6月15日・・・『物理的な別れ始まる』ってさ、なんだかすごく抽象的に計画表が書いてあって、どーもやり難いんだけど。 枕崎 そーお? 大西 もっとね、具体的に書いてくんないかな。 枕崎 例えば? 大西 例えばさあ、あたしこういうの書いてみたんだけど。(バッグから紙をだす。) 枕崎 なんだ西やん、やる気じゃん。 大西 いや、こういうの考えるのって嫌いじゃないから。 久保田 はい、お茶お待たせー。ん、何それ。 枕崎 西やんがね、新しい計画表くれたの。 久保田 おお。 大西 たいしたもんじゃないんだけど。 久保田 すごい。冊子になってる。 枕崎 ねえ。 大西 一応ね、あんた達のとずれないようには作ったつもりだから。 久保田 細かいスケジュールが2週間ごとにわけて書いてある。 枕崎 ほんとだー。几帳面だね、西やん。 大西 良かったら使って。 久保田 よし、採用。 枕崎 どうしたの、西やん、急に協力的になって。 大西 いや、いろいろあれから考えたんだけど、でもいまいちまだ理解しきれないものがあるにはあるんだけど、まあ、この計画事態は まんざら悪いものでもないなという気になったんだわ。 枕崎 西やん!! 大西 別れたカップルの共通の友だちって気を遣う立場になっちゃうけど、この計画がうまくいけばそんなこともないし、別れたあとの あんた達とあたしの関係もいままで通りでいいってことになるよね。 久保田 君なら解ってくれると思ってたよ。 枕崎 だから西やんってすき。 大西 どっちとも付き合い長いからね。くっつけた責任も今村の分まであたしがとりましょう。 久保田 今村君、アメリカ行っちゃったしねえ。 大西 そお。 枕崎 早かったよね、西やんと別れてすぐ行っちゃって。 久保田 でもそれはそれですっきり別れられたんじゃないか? 枕崎 そうだね、気まずく顔合わせないで済むし。どうだったの?西やん。 大西 うーん、いわれてみりゃそんなに・・・あたしのことはどうでもいいでしょ。 久保田 とりあえず、うれしいよ。君の理解が得られて。 枕崎 これから2ヶ月半、がんばるから。なんだか闘志が湧いてきたよ。 久保田 よろしく西やん。 大西 う、うん、よろしく。 枕崎 そうだ、シュークリームがあるんだった。どう? 大西 あ、いいや、あたしちょっと用事あるからもう行かなきゃ。 久保田 そうか、じゃあ、2週間後の定期検診で。 大西 じゃあね。 久保田 (大西が出て行かないうちに)いい奴だ・・・。 大西 気持ち悪いな、出てってからいってよ。 大西、出て行く。冊子に見入っている枕崎。 枕崎 久保田、チェック項目までついてる。やってみよう。 久保田 おお、いいね。 枕崎 ええと、6月15日までの達成項目。1、名前を愛称で呼ばない。 久保田 なんだ、予定に入ってたからあんなにこだわったんだ。 枕崎 さっきから呼び合ってるけど、OKかな。 久保田 OKだろ。 枕崎 チェック。2、一緒のふとんで寝ない。これ・・・ 久保田 ふとんひと組しかないから一緒に寝てるけど、そろそろ暑くなるし、今晩からわけよう。 枕崎 そだね。これ、今晩からだけど、チェックしていい? 久保田 よしとしよう。 枕崎 3、歯ブラシを同じコップに入れない。 久保田 それもともとマルだね。 枕崎 うん。西やんがそうしてたのかな。 久保田 かも。 枕崎 4、ペアの食器で食事をしない。 久保田 さっきから〜しないってのばっかだな。妙に後ろ向きな気がするのは俺だけ? 枕崎 このチェック項目皆そうだよ。全部で5問。 久保田 むー、西やんの性格か? 枕崎 そんなこと言っちゃ悪いよ。これはマルだよね。 久保田 え?なにが? 枕崎 ペアの食器。使ってないじゃん。 久保田 ああ、ペアったってもらいもんばっかだし、気に入ったの無かったし。 枕崎 どうするわかれたあと。半分ずつ持ってくのもなんだねえ。 久保田 でも捨てるわけにもいかないだろ。 枕崎 じゃ、分けてもってく? 久保田 うーん、お互いこれ以上ないくらい嫌いあったらやだけど、おれたちそうなる前に別れるんだからそれでもいいんじゃないか。 枕崎 そっか。そだね。・・・5、ペアの服を着ない。 久保田 持ってないだろ。 枕崎 西ちゃん、持ってたのかな。それとも普通持ってるものなの? 久保田 おれたちって淡白だったのか? 枕崎 そうかなあ。 久保田 まあいいや、それで全部? 枕崎 今日の分はね。一応全部OKだよ。 久保田 順調な滑り出しだな。 枕崎 まだ第!段階だよ。このくらいはクリアしないと。 久保田 そうか。 枕崎 ん?何だろ、このお米マーク。(*) 久保田 枕崎、それはアスタリスクって言うんだよ。 枕崎 へーえ、物知りだねえ久保田は。でもそれよりこれだよ、えーと・・・注意書きみたい。『計画を成功させる心得として、あまり けんかはしないこと。一つの対策として、なるべく昔話はしない。昔は良かったという発言からいさかいが起こることが多い。』 だって。 久保田 ・・・経験者は語るって感じだな。 枕崎 西やん・・・ 音楽が大きくなる。 大西 第二回定期検診でーす。 久保田 ごくろうさま。 枕崎 全部チェックできてます。 大西 はい検印。大変良くできました。(退場してまたすぐ戻ってくる) 大西 第3回定期検診でーす。 久保田 ごくろうさま。 枕崎 全部チェックできてます。 大西 はい検印。大変良くできました。この調子でがんばって。(退場してまたすぐ登場。) 大西 第4回定期検診でーす。 久保田 ごくろうさま。 枕崎 全部チェックできてます。 大西 はい検印。大変良く・・・ 久保田 これほんとにうまくいくのかなあ。(音楽止まる。) 間。 枕崎 く、久保田・・・? 大西 しっ・・・信じらんない。 久保田 え? 大西 だって、だって普通言うか?そういうこと。 枕崎 そうだよ、久保田。それは言っちゃだめだよ。 久保田 何で? 大西 何でじゃないよ。あんた、あれだけ自信まんまんにあたしを引きずりこんでおいて、いまさらそれはないでしょおおおお? 久保田 だって、なんだか自信なくなってきちゃって・・・ 大西 なんだとお〜!? 枕崎 久保田!! 大西 信じらんない信じらんない信じらんない・・・・・・・・・・・・・・ 枕崎 西やん、落ち着いて! 久保田 なあふみっち、別れるのやっばり止めにしないか? 大西 ・・・・・・・・・・・・・!!!! 枕崎 久保田、これ以上西やんを刺激しないで!! 大西 ・・・あたし、帰る。 枕崎 西やん!? 大西、出て行く。 枕崎 どうすんの。西やん帰っちゃったじゃない。 久保田 あんなに怒ることないよなあ。 枕崎 何言ってんの?西やんが怒るの当たり前じゃない。 久保田 別れるの止めるって言ってるんだよ、めでたいことじゃないか? 枕崎 あたしは同意してないよ! 久保田 ふみっち。 枕崎 枕崎!・・・5年も付き合ってきて久保田がけっこうちゃらんぽらんなの分かってたつもりだったけど、ここまでひどいとは思わな かった。 久保田 だって、不安じゃないか?こんなマニュアル勝手に作ってもほんとにちゃんと別れられるか分かんないだろ? 枕崎 でも最初にこれで努力しようって決めたじゃない。 久保田 しょうがないだろ、自信なくなっちゃったんだから。 枕崎 なんでここにきて自信なくすの!もう8月だよ。久保田、引っ越すアパートも決まったのに。 久保田 いまからキャンセルできるよ。 枕崎 そういう問題じゃないんだよ。久保田、あたしはあとに引きたくないの。せっかくいい調子で行ってたのに、このまま行けばほん とに仲良いまま別れられたかも知れないのに。 久保田 何だよ、そんなにおれと別れたいのか? 枕崎 当たり前でしょ。だからこんなにむきになってるんじゃない。 久保田 ふみっちさあ、その我が儘なおした方がいいと思う。 枕崎 我が儘はあんたでしょ!久保田のね、そういうとこがやなんだよ。 久保田 へーそうですか、でもこれは性格だから治せません。そんなに嫌なら別れたら? 枕崎 だから別れたいっつってんでしょ。 久保田 そうだった。 枕崎 久保田のバカ! 久保田 バカって言ったら自分がバーカ!! 枕崎 ・・・、やめた。 久保田 ど、どうしたんだよ。言い返さないの? 枕崎 なんだか情けなくなってきちゃった。 久保田 ふみっち。 枕崎 あーもうどうとでも好きに呼んで。でもね、これだけは分かってよ。さっき久保田があんなこと言い出すまではあたしと久保田は 同じ気持ちでやってるんだって信じてた。でもいまは全然違う。少なくともあたしはいますぐにでも別れたくなったの。 久保田 どこ行くんだよふみっち。 枕崎 西やんとこ。西やんに謝んなきゃ。ついでにね、あたし暫くここにはもどんないと思う。 久保田 ええ! 枕崎 お願いだから頭冷やして。 出て行く枕崎。うなだれる久保田。 大西の部屋。 枕崎 ほんとにごめんね西やん。 大西 あんたが謝ることじゃないでしょ。・・・久保田は? 枕崎 置いてきちゃった。あれからけんかして。 大西 珍しいね。どうすんの?戻りにくくない? 枕崎 そうなの。だから暫く西やんのとこにおいて。 大西 ああ、まあいいけど。 枕崎 せっかくうまくいってたのに・・・。 大西 計画たてて穏便に別れようなんて、やっぱりムシが良すぎるのかもねえ。 枕崎 西やんまでそんなこと言う〜。 大西 だって自分の人生と5年も深く関わってた人間との関係を終わらせるんだよ。傷の一つもなく別れられるわけがないよ。 枕崎 西やんさっきすごく怒ったくせに。 大西 当たり前でしょ、言い出しっぺの一人がいきなりやめたはないよ。でもそれとは別な話でしょ。 枕崎 そうか。・・・もう、だめなのかなあ。 大西 ど、どっちが? 枕崎 え、どっちって? 大西 いや、だから計画がもうだめなのか、あんたと久保田がもうだめなのか。 枕崎 ああ、どっちも。 大西 それは難しい。 枕崎 なんで? 大西 計画がもうだめってことはあんた達は別れないってことだけど、あんたと久保田がもうだめってことはあんた達は別れるってこと になるよね。 枕崎 ・・・難しいね。どうすればいいのかな。 大西 あたしにきかないでよ。 枕崎 このままじゃあたし達、別れることも付き合い続けることもできない。 大西 こうなったらあんた達心中でもするしかないね。 枕崎 ひどいよ西ちゃん。真面目に考えてよ。 大西 はいはい、ごめんなさい。でもまあ、久保田の頭が冷えないと何とも言えないよ。 枕崎 そうなんだね。 枕崎、大西退場。 大西、玄関へ。 大西 ピンポーン、第5回定期検診です。 久保田 西や〜ん。 大西 はいはい。 久保田 もう来てくれないと思ってた。 大西 最後まで見届けてくれって言ったのはあんた達でしょ。うわ、ずいぶんとまた、部屋荒れたねえ。すっかり男臭くなってる。 久保田 掃除はふみっちが担当してたんだよ。 大西 こんなに荒れてるのに、洗濯物はたたんであるんだね。 久保田 洗濯は俺の担当だから。 大西 枕崎がいなくても、きっちりノルマはこなしてたの。 久保田 そう、ちえのわ計画も。 大西 え、一人でやってたの? 久保田 うん、もう別居してるからほら、全部チェックできました。ハンコください。 大西 ハイ。 久保田 ふみっち、ひょっとして西やんのとこにいないかなあ。 大西 いるよ。 久保田 ほんと!? 大西 何で今まで捜しに来なかったの? 久保田 まだ怒ってるかも知れないから。 大西 計画を一人でやってたってきけば、怒らないと思うよ。 久保田 そうかな? 大西 ・・・枕崎と話す? 久保田 えっ。(うれしそう。) 大西 今うちにかければいるよ。 久保田 なんて話そう。 大西 自分で考えなさいよ。 久保田 もう一度やり直そう、とか? 大西 やり直すって、どっちを? 久保田 どっちって? 大西 いや、計画をやり直すのか、枕崎との仲をやり直すのか。 久保田 ああ、どっちも。 大西 どっちもってさ、あんた達ちゃんと考えて言ってる? 久保田 俺は考えてるよ。 大西 まあいいんだけどね、あんた達のことだから。 久保田 (電話してる。) 大西 あ。 枕崎、電話をとる。 枕崎 はい、大西です。 久保田 もしもし、もしもし?枕崎? 枕崎 久保田?どうしたの。 久保田 どうしたのってほどでもないんだけど・・・、げ、元気? 枕崎 元気だよ。 久保田 そう。・・・西やんの部屋は居心地いい? 枕崎 うん、とっても。 久保田 そう。・・・あ、こないだ俺道歩いてたらベンツに当て逃げされちゃってさあ。 枕崎 は? 大西 何の話してんの。 久保田 ああ、ごめん、忘れて。 枕崎 久保田、今あたし忙しいの、何も用事無いんなら切るよ。 久保田 あ、うん、ごめん。じゃあ。(切る。) 大西 じゃあって、切っちゃったの? 久保田 うん。だって忙しいって言うから。 大西 ばかだね嘘に決まってるでしょ。もっかいかけて! 久保田 ええつ、だって・・・ 大西 だってじゃない、もっと強気にでなさいよ。 久保田 強気にだな、よしわかった!(電話する。) 枕崎 はいもしもし。 久保田 枕崎か?俺だ久保田だ。いますぐ帰ってこい、帰ってこないならここにいる西やんにあれを公開するぞ!!!! 大西 枕崎 あれって? 久保田 昔枕崎からもらったラブレターだ!! 枕崎 のおおおおおおおおつ! 大西 それは恥ずかしい。 久保田 (ポケットから取り出す)『Dear. つるるるるん、元気してた?』 枕崎 読むなああ! 久保田 ふっふっふっふ。いますぐ帰るか? 枕崎 くううっ、ただですむと思うなよ!(切れる。) 久保田 あ。 大西 どしたの? 久保田 こじれた。 大西 当たり前でしょ。 久保田 西やんが強気で行けって言ったんじゃないか。 大西 そうだけどさ、でもあんなことすると思わなかったもん。 久保田 西やん〜。 大西 あんた卑怯だよ。 久保田 どうしよう。 大西 知らないよ。 枕崎、帰ってくる。 枕崎 久保田あっ!! 久保田 枕崎!!帰ってきてくれたんだね。 枕崎 う、うわ、なにこの部屋は。 久保田 枕崎がいなくなってすっかり男臭くなってしまったんだ。 大西 でもちゃんと洗濯はしてあるよ。 枕崎 あ、ほんとだ。 久保田 それにちえのわ計画だってちゃんとやってたんだ。 枕崎 一人で?そんなの意味ないじゃん。 久保田 えっ。 枕崎 やっぱり久保田分かつてない。この計画は5年間でもつれて絡まったあたし連の関係を、ばっさり切ったりしないで、ふたりでちょ っとずつ外していくからちえのわ計画って名前にしたんじゃない。一人でやったんじゃ意味ないんだよ。 大西 へえー、そうだったんだ。 枕崎 なに感心してんの、面やん。 大西 ちゃんと考えてたんだね、語呂がいいからつけたのかと思ってた。 久保田 見ろ、西やんも分かってないぞ。 枕崎 久保田が説明不足なんだよ。 久保田 何だよ、俺のせいにばっかすんな。 枕崎 そもそも久保田がちゃらんぽらんなのがいけないんでしょ。 久保田 枕崎は融通がきかないんだよ。 枕崎 そんなのあんたに言われたくない。 大西 ねえ。 二人 なに。 大西 あたし帰っていい? 二人 だめ! 枕崎 西やんはもう少し侍ってて。久保山に復讐したらすぐ帰るから。 久保山 復讐って何だよ。 枕崎 うるさいなあ。 久保田 大体枕崎はずるいぞ、西やんを抱き込んで。 枕崎 最初に西やんを怒らせたのは久保田なんだから、自業自得でしょ。あった! 大西 え、なになに。 枕崎 久保田が描いたあたしの似顔絵! 久保田 うわあああ、やめてくれええ。見ないで西やん! 大西 それも恥ずかしいね。 枕崎 へたくそ、しかも似てない。 久保田 一生懸命描いたんだぞ! 枕崎 どうだ、参ったか! 久保田 くそう、こうなったら奥の手だ。聴けっ、枕崎が俺のために綴ったポエム!!『いちょう並木をひとりで歩く 好きな人のこと想 いながら・・・』 枕崎 やめてええええ!! 大西 あんた達別れるにあたって、こういうの処分しないの? 久保田 いい思い出になるだろうからって捨てないことにしたんだ。 枕崎 捨ててやる、いますぐ捨ててやる。 久保田 待て枕崎!俺がきみを呼び戻したのはこんなことで争うためではないのだ。 枕崎 エスカレートさせたのはそっちでしょ。 久保田 そうかも知れない。でも、そんなことは今関係ない。 大西 どうしたのこいつ。 枕崎 単なるわがままだよ。 久保田 このままじゃ俺達は別れることも付き合い続けることもできない。 大西 同じこと言ってるよ。 枕崎 やめてよ。 久保田 枕崎、戻ってきて下さい。 枕崎 ・・・。(にらんでる。) 久保田 怒ってる? 枕崎 当然でしょ。 久保田 僕が悪かったです。 枕崎 ほんとにそう思ってる? 久保田 枕崎が出てってから2週間、人でちえのわ計画をやりながら考えてたんだ。これが5年間付き合った俺達の集大成なんだなあって。 大西 ・・・それは、空しいってこと? 久保田 違うんだ。そうじゃなくて、やり方はこんなだけど俺達は今、まとめをしてるんだなあと。 枕崎 まとめ? 大西 学級会じゃないんだから。しかもあんたね、こんなって言った?あたしが作ったマニュアルこんなって言った? 久保田 ・・・ああ、また西やんを敵にまわしてしまった。いや、俺が言いたいのは、このまとめが終わらないと、別れるほどの衝撃のな い俺達は別れられないってことなんだ。これは儀式なんたろ?俺達が別れるための儀式なんだよ。 大西 ええ?そうなの? 枕崎 ・・・そうだよ。 大西 ほんとか? 久保田 そうだろ。 枕崎 うん。少なくともあたしはそのつもりだった。だからちえのわ計画なんてふざけた名前の計画でも最後までやればきっと別れられ ると信じてやってたんだよ。でも久保田が・・・ 久保田 すみません、僕が悪かったです。 枕崎 分かったんならいいよ、もう。(まだむっとしたまま、何かごそごそ捜している。) 久保田 何してんの。 枕崎 ・・・久保田があたしのためにかいた曲。 久保田 やめてえええええ。 枕崎 『キミしかいない〜 僕のハートを揺さぶれるのは〜』 大西 今までで最高にこっはずかしい。しかも節はキラキラ星。 久保田 きゃー、西やん聴かないで! 枕崎 はースッキリした。 久保田 枕崎! 枕崎 これであいこだからもうしない。 久保田 ほんとだな? 枕崎 うん。西やんもごめんね、こんなことに付き合わせて。 大西 ううん、別にいいよ。それより、ちゃんと仲直りしなさいよ。 二人 ・・・はい。 大西 あーくしゅっ。・・・ところでさ。 枕崎 なに? 大西 計画、つづけるの。やめるの。 久保田 ああ、そうだな。どうする、枕崎。 枕崎 どうって、中断しちゃったし、ここ2週間分は久保田が勝手にチェックしてるし。 大西 2週間ぐらいのずれならいいじゃん。今からでも続けなよ。 久保田 そうだな、チェックも消しちゃえばいいか。 久保田、消しゴムで冊子をごしごしこする。破れる。 久保田 あ。 枕崎 あーあ、大雑把だよね久保田は。(手をだすが余計に破る。)あ。 大西 ちょっとお。 久保田 あーあーあ。 三人、冊子を破る。 久保田 こりゃー作り直さないと。 枕崎 そうだね。 久保田 あはははははははははは 枕崎 あはははははははははは 大西 はー。 枕崎 なんで西やんまで一緒になって。 大西 さーもうわかんない。 久保田 西やん責任取って作り直してくれる。 大西 何であたしの責任なの。自分たちでやんなさいよ。 久保田 ええー。 大西 あんた自分がチェックした項目の内容ぐらい憶えてるでしょ。 久保田 ううん。 枕崎 久保田鳥頭なの。 大西 あたしだっておぼえてないよ。作ってから1月経ってるし。 久保田 じゃあどうすればいいんだ。 大西 知りません。あたしもう帰ろうっと。 枕崎 ああ、西やーん。 大西 8月30日に第6回定期検診として来てあげるから、それまでに何とかしときなさいよ。 久保田 う一む、帰ってしまった。 枕崎 どうしようか。 二人 ・・・・・・・・・・。 久保田 枕崎。 枕崎 久保田。 久保田 おかえりなさい。 枕崎 ただいま。 二人部屋を片付け始める。 大西 ぴんぽーん、第6回定期検診でーす。 枕崎 いらっしゃい、西やん。 久保田 よく来たね。待ってたよ。 大西 計画、ちゃんと作り直した? 久保田 それなんだけどね。まあ座って。 枕崎 いいから座って。 大西 なに、なんなの。 久保田 枕崎 結婚しようと思う。 大西 ・・・そ、それはちえのわはもうやめたってこと? 枕崎 そうなの。 久保田 計画表も西やんに破かれちゃったし。 大西 あたしだけじゃないでしょ。 久保田 そうなんだけど。 大西 けどってなによ、けどって。・・・でもえらく急だね。何でまた? 枕崎 あたし達、別れの危機も乗り越えて、これなら将来的に結婚してもいいかなって言う気分になったの。 大西 はあ。・・・将来的? 久保田 そう、3年後ぐらいをメドにね。 大西 3年後って。 枕崎 別れの危機を乗り越えてって言っても、まだ病み上がりみたいなもんだし。 久保田 焦らずゆっくりやってこうかと。こないだは3ヶ月って言って西やんに迷惑かけたし。 大西 こないだは・・・。 枕崎 今度は大丈夫だよ。あたし達少しは成長したんだから。 大西 はあ、そうなの。 久保田 そこでね、また君にインストラクターを頼みたいんだよ。 枕崎 結婚までのあたし達をいろいろと支えてほしいの。 大西 どこが成長したってのよ。 枕崎 つるるん、西やんにちゃんと説明しなきゃね。 久保田 そうだねふみっち。 大西 ちょっと頼むからあんた達・・・ 久保田 名付けて、 二人 リリアン計画! お問合せ info@s-i-m.info